片腕のピアニスト

なあ、そんな顔すんなシゲ。

でももう分かったろ?


「握らないんじゃなくて、握れねぇんだよ。」


「…ッ‼︎」


…ごめんな、シゲ。

ごめんな。



沈黙が続く。



俺は、これしか思いつかなかった。




「うッ‼︎」


握れる方の右手で思い切りシゲの腕を握った。


「…べつにぃんだよ。

こっちの手があるんだ。
死んだわけじゃねぇよ。」


笑え。笑え。笑え。

こんな事俺は気にしない。
笑え。


もう…**なんてしな***----。


莉緒様…と言ってからしばらくして、思いついたように顔をあげた。


「学校はどうするおつもりですか?」


「シゲ、どっか全寮制の高校探してくれ。
今からだ。」


「御意に。」



シゲは目を瞑り、脳内の情報を引っ掻き回す。

これはシゲが集中するときにする動作で、執事としても優秀な頭脳をフル活用している証拠だ。


「白峰高校などどうでしょう。

学力、整備、寮内ともに問題ありません。」


「そこでいい。今から行くから手続きを。」


「御意に。」



家から車を出すとあいつらにバレるから、タクシーに乗って来たらしい。

質のいい車で送迎できなくて申し訳ないと先ほどからしきりに繰り返すシゲは、ほんとにいい奴だと思う。
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