かわいい金魚
「タカヤは、病院に戻ったのか?」
「鎮静剤を一応打たせてもらったけどね。俺たちが来た時には、高谷君は、ここに、座り込んでいたよ」

沼田は、身体を起こした。
床に散らばっている、金魚の醤油差し。

ひやりと、した。

「あいつ、まさかこいつを」
「いや。どれも、中身が入ったままだろう。今もまだ、禁断症状はあるはずなんだが。これを使おうという気は、なかったらしい」

(キンギョ、いっぱい売ってくるから)

沼田の首を締めながら。
タカヤは必死に言っていた。

あのときは、コカインを使うより、売ってこなければ、という気持ちのほうが強かったのかもしれない。

だが。

もしも萩たちがすぐに駆けつけてくれなければ、恐らく、ここに散らばっている金魚の中味は、タカヤによって吸い尽くされていただろう。

現実を忘れて、夢を見ることに憧れていたタカヤ。
タカヤにとって、コカインは嫌なことを忘れられる、夢を見る薬だ。
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