生徒会長が私を好きな理由
モヤモヤしていると、九条さんと目が合い私にニコニコと微笑みかけて来る。




「初めまして。私悠生と同じ学校で同級生の九条美月(くじょうみづき)です!」

「えっと…日野亜香莉です」


お互いに自己紹介が済むと、九条さんは私に「よろしく」と言ってまた笑った。

綺麗な子だな。それにすごく大人っぽい…第一印象は先輩かと思ったけどまさか同級生だったとは。




「生徒会のお仕事邪魔しちゃ悪いからこれで失礼するわね。早くこっちに帰って来てもらいたいし。悠生がいないとクラブ活動がつまんないだもん」

「クラブ?」

「ええ、私達は白百合清蘭学園の語学クラブなのよ。他国語で毎回論文を書いて発表し合うの」


ふーん。一柳くんてそんなクラブに所属してたのか。すごいな。

私なんて英語すらわかんないのに…




「じゃあ私はこれで。悠生またね」

「ああ。わざわざありがとう」


九条さんは一柳くんに笑顔で手を振ると、生徒会室のドアをゆっくりと閉めて帰って行った。九条さんの花のようないい香りがまだ周りに漂っている中私の胸は曇り空…

私よりも九条さんの方がずっと綺麗だし女の子らしい。きっと頭だって良いと思う。それに一柳くんの事も私よりもずっと知ってる…





「俺が忘れ物をしたせいで時間をロスしたな。済まない」


一柳くんは私に一言そう言うと、九条さんから受け取った語学クラブの資料を見せる。私は「うん…」と頷いて一柳くんを見つめた…



さっきの九条さんの言葉で思い出した…

一柳くんはこの学校に転校して来たというのはうわべの形だけで、あくまでもここにいる理由は生徒会に入ること。そしてこの学校に活気を取り戻すのが目的…

だから一柳くんからしたら、このつくば高校にいる事は好意ではなく仕方が無い事なんだ。確か白百合清蘭学園の理事長からの頼みらしいし、断ったりしたら成績を落とすと脅されたとかって言ってた…



早く前いた学校に戻りたいのかな…こんなショボイ高校になんて…居たくないの?





「何ガンつけてんだ。早くコピーして来い」

「あたた…」


眉間にシワを寄せながら考え事をしていたら、一柳くんに頬をつねられた。私は「はいはい!」と怒りながら生徒会室を出て職員室の方へ向かった。



え、っと…とりあえず生徒会の人数分の枚数をコピーすればいいんだっけ?

ということは5枚でいいのか。





「…うん、そうなのよ。ちょっと見学がてら来てみたんだけどね」



ん?


階段を下りて廊下に出ようとした時だった。廊下のすぐ角にスマホで誰かと電話をする九条さんの姿が見え、私はとっさに階段の角に隠れた。



…九条さんだ。

帰ったと思ったけどこんな所で電話中?


気付かれないように覗き込むと、九条さんは廊下の壁にもたれ掛かって足をクロスし腕を組んでいてとても大柄な態度に見えた。

さっき一柳くんと話していた時の雰囲気は今はなく、顔もすごく不機嫌で近寄りがたいオーラを放っていた。





「超汚い学校で最悪。制服もみすぼらしいし悠生が可哀想だよ」


自分のネイルをいじりながら、辺りを見渡して嫌な顔をする九条さん。



汚い?みすぼらしい??

それに一柳くんが可哀想って何よっ




「理事長も何考えてるんだか…うちの学園のアイドルの悠生を捕まえてこんな薄汚い学校に送り込むなんて信じられないわよ。何とかしても早く学園に連れ戻さないとね」


ふんと鼻で笑う九条さんはすごく怖い。さっきのあなたはどこに行っちゃったの…?

あれは演技だったってことか。それに今の口調だと九条さんは一柳くんの事好きなのかな。


私はしばらくその場に立ち尽くし、電話を終えた九条さんが帰った後に小走りで職員室に向かった。

そしてコピーを終えると、九条さんの電話での会話が頭をぐるぐると回りながら生徒会室に戻る…






「どこまでコピーしに行ってるんだお前は」

「え…」


生徒会室に入るなり、怖い顔をした一柳くんが私に近づいて睨んで来る。




「ごめんなさい!コピー機の使い方に手こずって」

「…ったく。こんな調子ならコピー機もこの部屋に置くか」


頭をポリポリとかく一柳くんは、そう言って私から資料を受け取る。





「とにかく今日はもう遅いからこれで解散。明日また続きをしよう」

「はーい!」


他のメンバーが帰る支度を始め、私も自分のカバンを持ち荷物をまとめる。
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