カルテットリバーシ
「…で、何でお兄ちゃんいるの」

 土曜日、水族館。マンタ、クレープ……緑君。

「いーじゃーん!マンタ!巨大マンタ!僕だって見たい!」

 駅で美夕ちゃんと待ち合わせて電車に乗って。
 水族館の入り口にて、待ち構えていた緑君と遭遇。
 しかも。

「もうちょっと待って。緋色も来っから」

 緋色まで来る。
 知らなかった。
 緋色とは毎日一緒にいるのに、そんな事一言も言ってくれなかった。

 緑君は白いロゴ入りTシャツに黄色とオレンジのチェックのYシャツを引っ掛けていて。その様子にドキドキして目も合わせられなかったけれど、美夕ちゃんはずかずかとずっと文句を言い続けている。
 ショーパンに可愛いひらひら半袖の美夕ちゃん。
 私もそんな可愛い格好してくれば良かったと自分の格好を上から見下ろした。
 何の変哲もないスキニーのサブリナパンツと、一応オフショルのトップスは白で無地。ふわっとしてるのは肩のあたりだけで、到底おしゃれとは呼べない。

 緑君がいるの知ってたら。
 もっと女の子っぽくしたのに。

 無意識のうちに肩を落として溜息がこぼれた。

 その私の肩を後ろからぽんっと叩いて。いつもの聞き慣れた声が耳に届いた。

「待たせたさね。なんさ随分荒れた現場だっけ、兄弟喧嘩け?」

 緋色は相変わらず。
 何を着ても王子様。
 黒っぽいちのパンも、ちょっとだぼっと見せた印象も。
 迷彩色の半袖シャツも胸元まではだけていて。首元のシルバーアクセが印象的な。

「…やっぱり着替えて来たい…」

 私一人だけが、場違いのような気分になった。

「…なんさ。可愛いっけ大丈……ああ、緑いるからか」

 励まそうと声を掛けた緋色が途中で切換してそう言ったので、こくりと頷いた。

「緑来るの知らなかったんけ?」

「…うん」

「俺も知らなかったさ」

「へ?」

「ついさっき急に緑から電話来て水族館来いって言われたっけ、どうせこんな事だろうとは思ったが」

 なるほど。
 だから緋色は私に水族館の事は言わなかったのか。
 全部が緑君の突発的な集合だった事を知る。
< 10 / 85 >

この作品をシェア

pagetop