カルテットリバーシ
 ずっと文句を言ってた美夕ちゃんも、緋色が来ると静かになって。

「お兄ちゃん最高っ」

 なんて現金な事を言い始めて、上機嫌のまま4人で水族館に入った。

 中は薄暗い空間だったから、多分反射的に。というかいつもの癖で、緋色は私の背中に手を添えて転ばないようにサポートしてくれているようだった。
 いつもはそれで良かったけれど、今日は。

「…今日は、いいよ。…あの。…緑君いるし」

 言えばハッとした緋色の表情に、やっぱり無意識だったんだなと思った。

「…まぁ癖さね。すまんさ」

 手を引っ込めた緋色は、それ以上自分が癖で何かをしないようにななのか。両手を組んで歩き始めた。
 私もその後ろを付いて行き。でも気付いて足を止めた。

 私も一緒だった。

「…ダメだなぁ、癖で緋色に付いてっちゃう」

 眉をハの字にして笑えば、やはり一緒に足を止めた緋色が振り返り目を細めて笑った。

「美夕ちゃんと一緒に歩いたらいいさ。そうすればきっと自然さね」

 たとえ擬似恋人とは言っても、恋人っぽい事は何もしていないとは言っても。
 一年以上ずっと一緒に居続けている人とのリズムはそう簡単に抜けないんだなぁっていうのを、初めて知った。これまでこんな、緋色と二人きり以外で出掛けるなんて事はそういえば一度も無かったのだった。

 とてとてと足早に美夕ちゃんの隣りに行った。
 マンタに食い入るように動かなかったゆいちゃんは私が行ってもやっぱり動かず。

「……そんなに好きだったんだね、マンタ」

 声を掛けても気付いてくれなかった。

「…美夕は昔からだよなー包み込んでくれそうなもんが好きなんだよなー」

 聞こえたのはやはりマンタを見上げていた緑君の声で。
 そっちを向いたら緑君もこっちを見た。
 心臓がドキリと跳ねる。
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