カルテットリバーシ
 緑君の眼鏡が水族館の青を反射させてキラリこっちまで光った。

「だから王子様待ちなんだろうなー緋色みたいな」

「…俺が誰でも包み込むみたいな言い方はいかんさね」

 緑君の視線は私の後ろの緋色の方に向いて。
 私もなんとなくそっちを見た。

「…今セレンと付き合ってるっけ、他の奴にそんなことしないさ」

 疑われたとでも思ったのか言い訳みたいにそう言うから思わず私も笑って、

「いいよ、いいよ、そんな、ちゃんとしたのじゃないし、私達」

 なんて言ってしまい。
 緋色は鼻の頭をバツ悪そうにカリッカリッと掻いて、

「一応、…名目だけでもそういうのはちゃんとするさ」

 なんて照れながら言った。
 その様子に、さっきまでマンタを見ていたはずの美夕ちゃんがバッと振り向いて。

「か、……かっこいぃいぃ~~!!」

 と叫んだその声。きっと巨大水槽をも震わすほどに。

「み、美夕ちゃん、恥ずかしいよっ」

 慌てて美夕ちゃんの口に手を当ててそれを止めさせて。
 でももう美夕ちゃんには緋色しか見えていないようで、私を押しのけて緋色の前までずかずかと進んで行き。

「本当に王子様……ねえ擬似恋人だったら私でもいいと思うの、ねえ」

 なんて言いながらハート目バシバシで。
 でも私じゃなくてもいいって私も思うし、それで美夕ちゃんが幸せならってちょっと思ったりもしたけれど。

「俺の事が好きな子を偽物の恋人にするなんて、傷付けるような事しても意味ないさね。セレンは俺に興味ないんさ。だから偽物の恋人でも平気だっけ、美夕ちゃんはダメさ。すまんさね」

「ああー!もうー!断り方まで王子様すぎて何も言えないっもぉー!」

 確かに。
 王子様。

 ちらり横を見れば楽しそうに笑う緑君の姿。

 その姿に、さっき見たはずの王子様の姿は私の瞳からは吹っ飛んでしまった。
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