カルテットリバーシ
 巨大マンタに満足したのか、ほとんどそれ以外の魚には興味を示さないままなんとなく通りすぎて水族館を出た。
 もうちょっとペンギンが見たかったけど、あまりにも足早すぎた美夕ちゃんには付いて行くのが精一杯で、そのまま出口を出た。
 緋色にはそれがバレていたようで、一人出口に来る事遅れて、私にペンギンのぬいぐるみを押し付けて来た。

「やるさ。ちゃんと見れなかったっけ、ぬいぐるみだが」

 王子様対応に美夕ちゃんが悔しそうに目を潤ませて私を見た。
 う。
 えと。
 …こんな時どうしたら。

 思っていると、緋色がふいに美夕ちゃんの肩に手を置いた。

「ずっと兄貴と一緒ってのもきっと窮屈さね。兄弟で出掛けるなんて俺ならとっくに脱落して帰ってるさ。ここからは兄貴とは別れて俺とどっか行くけ?」

 笑った緋色に、はれ?と首を傾げる。
 てっきりこのまま4人で帰るものだと思ってたし、だとしたら4人でクレープ食べるものだと思っていたし。美夕ちゃんと緋色が二人でいなくなってしまうという事はつまり。その。

「いーいーのー!?やったぁー!セレン、いいの?恋人さん借りてもいいのっ?」

 うきうき目を光らせながら私の方を覗き込んで来た美夕ちゃんに、雰囲気で圧倒されて思わずこくこくと頷いてしまった。

 え。
 でも待ってね。
 だからそれはつまり。

「セレン、今日だけさ。美夕ちゃんと飯でも食って送り届けるっけ、あとで連絡するさね」

 恋人なのにごめんとでも言いたげなその顔。
 そうじゃない。
 私が言いたいのはそういう事じゃない。

「緑、セレンを頼むさ」

 緑君。

 急に事態を飲み込んだ私の体が全身心臓に変わる。
 息が、できなくなる。体が震えて動かなくなる。
 緑君。

「あーいよー。二人でどうぞらぶっちゃって~いってらっさーい」

 いつも通りのちゃらっとした口調の緑君。
 でも、怖くて、そっちは、見られない。
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