カルテットリバーシ
「おーい…聞いてるー?」

 目の前を緑君の手がぱっぱっと往復する。
 ハッとしてギギギ…と効果音の付きそうな首を緑君の方に向ける。

「あ、…は、はい。生きてます。エンゼルマークは銀なら5枚デス」

 その場をなんとか取り繕おうとした結果よくわからないことまで口走りつつ。
 緑君は何のこっちゃって顔でこっちを見ていたので、両手で自分の頬を強めにぱんっぱんっと叩いて正気に戻ろうとしたら、おもむろにその両手を掴まれた。
 掴まれた手から流れる体温に、自分の顔が真っ赤に染まって行くのを感じる。

 緑君の手が、私に触ってる。

「この間ひっぱたかれたんでしょーに。そんな事したらまた腫れるじゃん!!」

 呼吸が止まりそうで。何も言えなくて。
 うんうんと頷いて見せたら手を離してくれた。

 二人きり。

 誰も助けてくれる人なんていなくて。
 緑君が私以外を見ている時間なんてなくて。
 緑君が私以外に話しかける事なんて今はなくて。
 緑君が私以外の事を考えてる時間がいつもより短くて。
 私は緑君だけに話し掛けて。
 私は緑君だけを見つめて。
 緑君だけを思って。
 緑君だけ。
 緑君。

「…だ、だめ…しんじゃう…」

 視界くるくると目が回る感覚に、緑君が心配そうな顔をしたけれど、これ以上はどうにも復帰する予兆もなく。

「え、えと…どこか…い、行きますか…?」

 思わず敬語になった私に緑君は首を傾げつつ。

「んーまだ3時っしょー?なんだろおやつタイム?チョコ?どっかにチョコ食いに行く?」

 緑君は無類のチョコ好きだった。
 甘いものはそんなに好きじゃないって言ってたけどチョコだったらいくらでも食えるって前に言ってた気がする。

 チョコってだけで本当に嬉しそうな顔をした緑君に、少しだけ私の緊張が和らいだ。
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