カルテットリバーシ
 クレープを食べ終わったらもう帰るのかなって思ってたら、緑君が次は夕飯食わなきゃ、なんて言うので、ファミレスを探して二人で地元を歩いていた。
 食べたばっかりでお腹は空いてなかったけど、まだ一緒にいられるなら別にどこでも良かったし、私のお腹の事なんてどうでも良かった。

 ふと、目に入ったファミレスに近付いて席が空いているか中を覗き込む。
 すると、中に。

「緋色と美夕だ」

 談笑している二人の姿を緑君と顔を合わせて見守った。

「…兄貴としては複雑な気分である」

「…っぷふ」

 珍しくお兄さん口調なんてした緑君に思わず吹き出してしまった。

「なんだよ、何か変!?」

「だ、だって、いつもはお兄さんっぽくない…」

 込み上げてきた笑いは途切れなくて、腹筋を震わせて私は笑った。

「だってさー緋色は他に好きな奴いんのにそれとは別の恋人がいてさーでも妹がその緋色と今楽しそうに談笑してるんだぜ?どう?ねえどう?ダメくないこれ?」

 説明されれば確かに複雑だけれども。

「きっと、美夕ちゃん真剣に緋色の事好きとか、そういうのじゃないと、思うよ…?ただ、顔が好きで、王子様で、アイドルのファンみたいな、感じだと思うけど…」

 答えれば今度は緑君は安心した顔で笑って。

「そうなの!?な~んだ~!!じゃあいいか。会えるアイドルなんていいな。今度サインもらお」

 と両手を頭の後ろで組んだ。
 単純というか、わかりやすいというか。
 でもその分シンプルで。
 難しいことが何ひとつないから真っ直ぐで。
 どこまでも真っ直ぐで。

 ドキドキする。
 緑君の全部が、私をドキドキさせる。

「…邪魔しちゃ悪い気がするね。僕らは違うとこで食おっか」

 僕ら。

「あ、うん。…あ、ファーストフードでもいいかな。あの、皮付きポテト食べたい、かも」

 僕ら。の中には今、私が含まれてる。

「んーじゃチキンの方かな。あっちか。行こ」

 私しか、含まれてない。
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