カルテットリバーシ
 一緒に食べるチキンの味は、いつも通りのチキンの味なのに。
 きっと向かい側で緑君が美味い美味い連呼しているから、美味しく感じるんだと思った。

 なんちゃって。

 違うね。

 …一緒に食べる相手でこんなにも味って変わるんだなって、思った。

「…緑君は…その。……彼女とか、作らないの?」

 視線はチキンに向けたまま、心臓爆発しそうな質問をした。
 返答が来るまでの数秒間。やっぱりいいやって何回言おうとしたかわからないけれど、緑君は何の不自然さも感じなかったようで「うーん」と唸り。

「相手いないじゃん」

 軽く言う。
 いるよ。ここに。いるよ。

「僕緋色と違ってモテないしね~告られた事なんて一度もなっすぃんぐですよなっすぃんぐ」

 …いるよ、緑君の事、大好きな子、ここにいるよ。

「ま~あそこまでモテてもしゃ~ないな~めんどくさそ。好きな子にだけモテればいいよな~」

 言いながらチキンを口に入れようとした緑君。
 思わず少し大きめの声で、

「好きな子いるのっ」

 聞いた私の声は、不審だったかもしれないと一瞬で反省をした。

「んーまあ」

 返答に愕然とする。
 そっか、好きな子。いたの。

「そ、…そっかぁ。どんな子かな、緑君の好きになる子って、想像つかないな、可愛らしい子、かな。美人系ってあんまり想像つかないかも。あ、年上とか合うかもしれない。熟女キラーみたいなイメージも、あるよね、緑君」

 思わず動揺を隠そうとペラペラ喋ったのも、不審だったかもしれない。

「なわきゃ~ない!熟女とか興味ないし!なっすぃんぐ!!可愛い子がいいの!!」

 緑君のテンションに「あはは」と笑って見せた私の顔は。
 きっとちゃんとは笑えていなかったんじゃないかと思った。

「…上手く、行くといいね」

 思わず出た自分の台詞に、自分の喉を殺してしまいたい気分になって。
 全身が哀しみに包まれて行くような冷たい気分を感じていた。
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