カルテットリバーシ
「それじゃ、またね~!」

 緑君が手を振って離れて行く。
 離れて行ってしまう。

「あ、…あ、あの、家まで送ってくれてありがとう!ま、またねっ」

 私の声は聞こえたのかな。
 もう随分遠くに行ってしまった緑君の姿をそれでも見送る。
 見える間はずっと。

 今日が終わってしまったと思った。
 楽しすぎた今日の時間が。
 幸せすぎた今日の時間が。

 全部が初めてだった今日の時間が。


 スマホを取り出して、いつもは押せないボタンを押してみる。
 ライン、…緑君の名前。

 きっと今日は、何か言っても、自然な気がして。


『セレン、です。
 今日はとってもありがとう。すっごく、楽しかったよ
 また、一緒にどこか、行こうね』


 送信ボタンを押す前に深呼吸する。
 これも初めて。ずっとフレンド登録してあったけど、メッセージ送った事なかった。
 緑君への、初めてのライン。
 送信ボタンを、押した。

 ドキドキがどうにもおさまらなくなったから、慌てて緋色のトーク画面に切り替えた。


『今緑君と別れたよ。家に帰って来ました』

 こちらはいつも通りの連絡を打ち込んで送信を押す。
 緋色の画面ではすぐに既読が付いてすぐに返信が返ってきた。

『こっちも終わったさ、お疲れさま。疲れてると思うき、今日は早く寝るといいさ』

 安心するいつも通りの画面。
 私は「了解!」というクマのスタンプを押して、家に入った。
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