カルテットリバーシ
「結局、緑と二人っきりだったっけ、何もなかったけ?」

 私はお弁当を喉につまらせて胸をドンドンと叩いた。
 緋色は相変わらず半笑いでそれを見ながらココアを飲んだ。

「な、…何も、なかった」

 言うのも情けないほどに、本当に。
 おそらくはせっかく緋色が気を遣って二人きりにしてくれたというのに。

「そっちは、美夕ちゃんと、何もなかったの…?」

 あるはずもないのだけれどなんとなく聞き返せば、

「…何かあったら妬いてくれたっけか」

 なんて悪戯に笑ったから思わず顔がぽわっと赤く染まってしまった。
 王子様。なんて酷い王子様。

「…ううん、…正直、きっともう、緑君と二人きりだったっていうだけで、私そんなこと色々考えてる余裕ないと思う。というか、もう、あの日自分が何喋ってたのか、緊張で全然覚えていなくて…ずっと、ドキドキしてただけだった、かも」

 思い出しても思い出しても。
 二人っきりだったっていう事実と緑君の顔しか出て来なかった。

「…なんさ、俺の方が妬きそうさね。幸せそうで何よりさ。だっけ、ちゃんと進まないと、あいつ鈍感だっけ絶対気付かないさ。ちょっとずつでもアピールした方がいいと思うさね」

 穏やかな口調に、背中をぽんぽんと叩かれ。
 お弁当をもそもそと食べながら考える。

 アピール。
 
 緑君は何をされたら喜んでくれるんだろう。
 どうしたら嬉しいんだろう。
 あんまり、予想がつかないかもしれないと思った。

「…まぁ、本人に聞くっていうのも手さね」

 瞬間、口に出していないはずの私の悩みの答えが振りかかってきて、緋色の方をバッと見た。きっと私の表情とかから何考えてるのか察してくれたのだとは思うけれど。
 でも緋色は私の事は見てなくて、もっと後ろ。
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