カルテットリバーシ
 緋色の視線に合わせて後ろを振り返る。

「よっす!緋色探してたんだけど~らぶらぶタイムお邪魔ごめんっしゅ」

「み、みみみ、み、み、…み、…みみ、…」

「あ?何、セミの練習?」

 緑くん。
 緑くんだ。

「ち、違うっ。緑君だな、ってっ。こ、こんにちはっ」

 あの水族館以来。二人きり以来、初めての緑君。

「何の用さ?」

 いつも通りのトーンで話し掛けた緋色に任せて私は下を向いてお弁当の続きを食べているふりをした。口には入れるけど味なんかわかんない。何食べてるかも、よくわかんない。

「なんか告りたいっぽい子が教室来てたけど、勢い余って僕が断っちゃったよ!てへぺろー」

 緑君が断る…?
 何て言って断るの…?

「何言ったんさ」

「『緋色は僕のだからダメよ~ん!実はあいつゲイなの。ゲイ』って言っといたから相手の子を傷付ける事もなく、しかも周りに伝わったら女の子達が一斉にあきらめてくれるだろうって僕の天才的お断りを見たかー」

 ピースサインでにこにこと話す緑君と反対の方でブチッとした音が聞こえた気がした。
 こ、怖くてそっちが見られない。

「ほう。…はからいどうも。そんなに俺と寝たいなら寝かせてやるさね」

 拳握りしめ立ち上がった緋色に、両手で待った待ったポーズをする緑君。
 すぐに手を合わせてごめんねポーズに切り替え。緋色は拳を下ろした。

「いつかその眼鏡割るっけ、楽しみにしておくといいさ」

 その日緑君はトレードマークの青縁セルフレームの眼鏡をかけていた。
 かけてない時もあるしメタルフレームの眼鏡の時もあるけれど。

「ちょ、これ一番気に入ってやるやつ…」

 二人のやり取りは息ぴったりで。
 一瞬の緊迫したやり取りさえ、なんだか心地良かった。

 
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