カルテットリバーシ
 緋色が私の隣りに戻ってくる。
 なぜか緑君が私を挟んで反対側に座る。

 …あれ?

「セレンがハーレム状態な気がするっけ、緑お前いつまでいるんさ」

 お弁当持つ手がカタカタ震える。
 ハーレム状態だからじゃない。隣りに緑君がいるからだ。
 箸で挟んだご飯、落とさないようにぷるぷる震えながら、ゆっくり食べる。

「なんだよ、邪魔?邪魔なの?まぁ邪魔しに来たんだし」

 体育座りに顔を埋めた緑君が横を向いているのは、緋色を見ているのかな。
 必然的にこっちを向いている顔に、怖くて目を合わせられない。
 緋色が小さく溜息を付いたのが聞こえた。場をつなごうと会話の内容でも探っているかのように変な間が出来て。その間に私は肉巻きポテトを口に入れた。


「…なあ緑ってセレンの事どう思ってるけ?」


 !

「ご、ごほっごほっ」

 途端聞こえた緋色の台詞に肉巻きポテトは丸呑みで喉に引っかかって咳込んだ。まだ喉に残る違和感にペットボトルのお茶をごくごくと飲む。

「な、なな、何聞いてるのっ緋色っ」

 お茶が飲み終わって一呼吸置いてから緋色の方を向いてそう聞くと、緋色は至極真面目な顔をしたままで、冗談を言ったつもりはないとでも言いたそうだった。

 緑君は。
 何て答えるの。

 怖くてずっと、そっちが見られない。

「緑?聞こえてるけ?」

 いつまでも返答のない緑君に緋色が催促をする。
 まだ、聞こえない。
 まだ、聞こえない。

 …答えづらい?…本人目の前に、そんな事言わされるの、つらい、かな。
 何とも思ってないって言ったら私を傷付けるんじゃないかとか、でもちょっと気があるとか言っても私が何とも思ってなかったら関係に傷が付くんじゃないかとか、友達としてとか付けるべたな方法も今となってはなんというか古風というか緑君がそんな事言うようにも思えないし、だとしたら何、何ていう答えが帰ってくるの。

 ぐるぐると思考だけがフル回転する。

 背後、緑君が少しだけ動いたような服擦れの音が聞こえた。

 そして緑君が。


「…お前の恋人だと思ってる」


 言う。
 …言う。
 …言った。

 落ち込むでもドキドキするでもない、当たり障りのない答えがそれだったのかな。「どう思ってる」だから、答えは間違ってないよね。間違って、ないけれど。
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