カルテットリバーシ
「…別れるけ?」
帰り道。隣りを歩く緋色が夕日のオレンジに染められながらぽつり言った。
驚くでもなく、急になんだろうっていう気分で私は首を傾げて。
あ、もしかしたらゆきさんと上手く行くのかもしれない。
瞬間的にそう思って、勝手に笑顔がぱぁっと出た。
「告白、したのっ?」
目をキラキラとさせながら言った私に、緋色の呆れ顔が返ってくる。
「…何を勘違いしてそうなったんさ。それゆきの話け?最近会ってないから知らんさ」
違った。
意図しなかったけど私は勝手にしゅんっとなった。
「だって私と別れるって事は、ゆきさんと付き合うのかなって思うじゃない…ぶー」
私が見当はずれだった事じゃなくて、ゆきさんと上手く行くわけじゃないっていう残念感で私はぶーたれた顔になった。
緋色は相変わらず表情変わることなくそれを見て。
「…緑の話さ」
言った言葉に、私のぶーたれ顔も消えた。
きっと、昼間のやり取りの話かなって思った。
緑君が、私の事どう思ってるかって聞いて、緋色の恋人だって。
そっか、気にしてくれたんだ。
「あの、お昼の時のやつだよね。私、大丈夫だよ。緑君とは、その、お付き合いするとかそういうレベルじゃないっていうか、全然、私に興味なんて持ってくれてないし。緋色の役に立ててるなら、このまま緋色の恋人で大丈夫だよ」
言い切るように言うと正面を向き直った緋色が大きく溜息をついた。
「俺のせいで緑に振り向いてもらえないかもしれなくても、いいっけ?」
優しい優しい、恋人。
「うん、緋色がいてもいなくても、緑君は私なんて、見てないよ」
「それはわからんさ、少しは気になってるかもしれないさね」
「ううん、…見てないよ」
言うほどに片思いを痛感して。
緑君と会話すらまともに成立出来ない私は、仮に緑君に興味を持ってもらえたとしても、緑君の毎日を楽しくしてあげる事は出来ないような気がして。
緑君が楽しくない毎日なんて、私は嫌だから。
緋色が私の頭に手を乗せてぽんぽんっと叩いた。
口には出していないけれど私の考えている事なんてきっと緋色には全部わかってて。
「セレンは引きすぎさ。もっと堂々としていいっけ、謙虚すぎると自分の幸せ見逃しそうさね。俺は、セレンが幸せな方が嬉しい。緑に告る時は俺はすぐ別れるっけ、言って欲しいさ」
言われなくても、緋色がそう思ってくれてることの全部を私もわかってて。
「…緑君の前だとドキドキしちゃって。堂々と、出来ないなぁ」
肯定でも否定でもなく。謝罪でも了承でもなく。
声弱くそう漏らした。