カルテットリバーシ
 緑君の座ったソファの横、床にちょこんと座って緑君を見上げた。
 聞こえるか聞こえないか、小さな声でつぶやく。

「…イチャイチャ、しない、よ」

 急に恥ずかしくなって目線を床に向けた。
 こんな報告、いらなかったかなって思ったけど、誤解されるのも嫌だった。

「すればいいのにせっかくなんだから」

「し、…しないよ。そういうのじゃ、ないから」

「でもみんなが憧れる王子様だよ?今セレンしか触れないんだよ?もったいなくない?」

 …確かに。私しか触れない場所にいる王子様。
 期間限定と同じような魅力はあるような気がするけれども。

「…で、…でも、しない、よ」

 お互いにそういう事したい人は、別にいると思うから。
 
 緋色がグラスを3個、器用に持って来てテーブルに置いた。

「緋色は何でセレンに手出さないのー?」

 直球の質問に緋色も立ったまま一瞬止まって、でもすぐに大きく溜息をついた。

「オセロでもするけ?」

 質問には答える価値もないとでも言いたそうな顔をして隣りの部屋へオセロを取りに行ってしまった。

「クールだね~相変わらず。あれはモテるね、確かに」

「うんうん」

 力強く頷いた私の何かがおかしかったようで、緑君は吹き出したように笑った。
 一体何を笑われたのかわからなかったけれど、緑君が笑っているのを見て、私も思わず口元に小さな笑みを浮かべて肩を震わせた。
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