カルテットリバーシ
 最初に緋色に会ったのは、友達の家だった。
 高校に入ってすぐに同じ部活のお友達、光月美夕(こうづきみゆ)ちゃんと意気投合して、休日にはあちこち一緒に出掛けるようになって、美夕ちゃんの家にもよく遊びに行った。

 美夕ちゃんには緑(みどり)っていう名前のお兄さんが一人。
 とても活発で、明るくて。家に行くたびに私に声を掛けてくれた。

 その緑君の、友達。
 
 美夕ちゃんちで初めて見た緋色は紺色のYシャツを来た、やはり王子様の印象だった。
 長めの髪は軽くウェーブがかかり。天パって言ってたけどわざとみたいにそれはとてもおしゃれに似合ってて。
 美夕ちゃんは緋色の見た目に、でれでれとした顔で擦り寄って行き、でも私は。

 緋色じゃなく。

 それを楽しそうに笑って見つめる緑君の方を見ていた。


 確かその時に、緋色が「女の子を振るのがとても心苦しい」っていう話をしていて。緑君がその場で、私と緋色が付き合えばいいっていう提案をした。

 全然面識のない人だったけれど、私なんかで役にたてるなら、使えるなら使ってもらってもかまわないというような返事をすると、じゃあとりあえずやってみようかって事になって。


 それから始まった、擬似恋人。

 
 お互いに、ただ告白してくる女の子をかわすためと理解した関係。
 見せつけるために手を繋いだ事はあるけれど、ここまで1年2ヶ月。
 キスをした事もなければ、抱きしめられたことすらなかったし、それでいいと思っていた。

 毎日のルールは、お昼を一緒に食べることと、用事がなければ一緒に帰る事だけ。

 恋愛感情はひとつもない。
 隣を歩いていればやっぱり格好いいからドキドキはするけれど。
 それでもただ楽しいだけの、仲のいい友達のような、兄弟のような。

 私にとって緋色はそういう存在だった。
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