カルテットリバーシ
 星がいくつか見える空。
 薄暗い紫と、少しのオレンジの空。

 一歩前に、緑君。
 緑君がだらしくなく着たYシャツの裾が、揺れる。

「…緋色なんか用でもあったの?」

 こっちを振り向くでもなく緑君は興味なさそうにそう言った。
 部屋を出てから何も喋ってなかったこの場の会話をつなぐための話題だったのかもしれない。

「え、ううん、用はなかったと思うけど…」

 どう思ったんだろう。
 急に一緒に帰ってくださいなんて言った私に、何を思ったんだろう。

 そんな事を考えられてしまっていると思うと恥ずかしくなって、何でもいいから話題を振って忘れてもらおうと思った。
 何でもいいから。

「緑君は、…オセロが好きなの?」

 最初の方は声が裏返った。

「んー?別に好きってわけじゃないけどやること無かったんだよ、僕も緋色も。結局さ、趣味とか全然違うっしょ。あいつ喧嘩が趣味みたいなもんだし、僕は外ぷらぷらしてんのが好きなだけだったし。一緒の話題とか全然無かったんだよねー」

 言われてみればそうだ。
 全然二人の間に共通のものなんて見えない。それでも仲が良かった二人。

「…どうして仲良くなったの?」

 緑君は頭の後ろで両手を組んで空を仰いだ。

「緋色が無理してそうだったから声かけたの。取り巻きの女の子達ににへらにへら笑ってた顔がキツそうだったっていうか。あそこから脱出させてやりたいなーと思って、僕適当に割って入り込んでたんだ、女の子と緋色の間に。ほんでまぁこんな感じに」

 色々濁してはいるけれど、まったく緑君らしいなと思った。
 何度も何度も、わざと、でも悪気がないふりをしながら、「ちょっとごめんねー」なんて笑いながら、緋色につきまとう女の子を振り払っていたんだろうと想像出来た。
 どこまでも明るく、まるで全部が冗談みたいに。
 そんな緑君を見て、みんなはチャラいとか、軽いとか、言ってるのを聞いたことがある。

 でも。

「…本当は、そうじゃないんだよね。緑君は、いつもみんなに、ずっと優しい。困ってる人の力になろうって、すぐに手を差し伸べてくれて。…緑君て、すごい」

「ん?何急にー?僕はいつでも優しい紳士ですよん!頼もしいっしょ!!」

 笑って振り向いた緑君がまたそうやって冗談みたいに笑うから。

「…はい、頼もしくて……かっこいいです」

 たまらなくなって、ドキドキして、笑ってそう返した。
 一瞬きょとん顔をした緑君もまた笑って、でも今度は照れたように私を見た。
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