カルテットリバーシ
「セレンは、真っ直ぐだよね。そういう女の子っていいよね」

 急に緑君から言葉が降って来てドキッと息を止めた。

 “そういう女の子っていいよね”っていうのは、私の事を、いいって言ってくれたという事なんだろうか。
 鞄を持つ手にぎゅっと力を込める。

「ま、真っ直ぐな女の子が、…好きなの?」

 …あれ。
 何を、聞いているんだろう私は。

「んーどうだろ、そういう風に考えた事なかったけど、あーでも好きかも。ややっこしいの苦手だからなー!束縛だの嫉妬だのあれは好きだけどこれは嫌だの、言われても僕覚えておけないから、いつでも真っ直ぐな子の方がいいかもー」

 真っ直ぐな子。
 私の事を真っ直ぐな子って言ってくれたけど、どうやったら緑君の好きなその真っ直ぐな子になれるんだろう。難しい事を言わなければいいのかな。そうしたら好きになってもらえるのかな。
 
 好きになって、もらう…?

 好きに、なって、もらえるの…?
 私、なんかが…?

 考えた思考が、ぴたりと止まって。うっかり一緒に足も止めてしまった。


 そんな事、考えた事もなかった気がする。

 
 でも。
 好きになんて、なってもらえるはずがない。
 だって、私は、何もしていないもの。

「…セレンー?どした、具合悪いの?平気?ねえ?」

 緑君は少し行き過ぎたところから慌てて私のところへ戻って来て顔を覗き込んだ。
 私も慌ててハッとして顔を上げて、

「あ。ち、ちが、ごめん…あ、足、止まってた、…ごめんなさい」

 とぼとぼと小さく歩き始めた。
 緑君はその横を並走するように歩いてくれて。

「…本当に平気?…緋色呼ぶ?」

 緋色。

 …違うよ、緑君。
 私、緋色と一緒にいるより緑君と一緒にいる方が嬉しいんだよ。
 嬉しいはずなのに、どうしてだろう。
 今は少し、悲しい気持ちの方が、上になってしまったのかもしれない。

「よ、…呼ばない。…大丈夫。違うの、具合が悪いとかじゃないの、考え事してたら、うっかり止まっちゃって」

 もう暗くなった空のおかげで、私の顔がちゃんと緑君に見付からなくて良かったと思った。
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