カルテットリバーシ
「アピール…」

 家に着くなりベッドにごろり転がった。
 結局あの後、私がたいした会話も出来なくなっちゃって、緑君はそれでも私の具合が悪いと思っていたのかただ優しくずっと隣りを歩いてくれていて、時折ぽつぽつと話し掛けてくれて。楽しい会話ばかりを選んでくれて。

 なのに私、何やってるんだろう。

 あの一瞬なぜか強烈に、緑君に好かれたいと思ってしまった。
 今までそんな事は考えた事がなくて。
 少しでも一緒にいられればいいな、話せたらいいな、ぐらいにしか考えていなくて。緑君が楽しく笑って話してくれるから、それがただ嬉しくて。
 それが、どうしちゃったんだろう。

 どうしちゃったんだろう、私。

 緑君に嫌われるのが嫌だと思ったし、もっと好かれたいって思ってしまった。
 何を言ったら嫌われてしまうの?
 何を言ったら好きになってもらえるの?

 緑君が私を好きになってくれたら、どうなるの…?


 そこまで考えて、枕をぎゅっと抱きしめて目を閉じた。

 好きになってくれるなんて、ありえないのに、どうしてそんな事を考えるようになったんだろう。今まではそんな事、どうだって良かったはずなのに。


 ぼんやりしてたらラインが鳴った。
 慌ててスマホをどこに置いたか探し出して画面を見れば、緋色の名前が点灯されて。

『大丈夫け?緑から連絡来たっけ、具合悪いっけか?』

 安心する緋色のメッセージに思わずはらりと涙が溢れた。
 私、おかしい。

 ぽちぽちと打ち間違えないように文字を押す。

『ううん、具合、悪くないの。緑君と話してたら胸いっぱいになっちゃって、何も上手く喋れなくなっちゃって、緑君、心配してたかな…どうしよう』

 吐き出したら、一緒に涙もぶわっと出て来て。
 イスの背もたれに掛けてあったハンドタオルを顔に押し当てた。

 何してるんだろう。
 何してるんだろう私。
 せっかく緋色が二人きりにしてくれたのに。
 ちゃんとお話も出来なかったんだ。

 ボロボロあふれる涙が、どんどん出て来て、でも声を出さないように、息を吐いた。
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