カルテットリバーシ
 ラインが響く。
 緋色の返信を見るのに手を伸ばしたけれど、涙が零れ落ちそうで伸ばす手をまた顔に戻してハンドタオルを押さえた。

 情けない。
 何もやってないのに泣いてるなんてどうかしてる。
 きっと今まで何か溜め込んでたんだな、私。それが今溢れてるだけだ。

 なんて前向きに考えようとしたけれど、どうにもそういうわけにも行かなかった。
 思い出すのは緑君の顔ばかりで。
 明日から緑君とどう接すればいいのか、そればかり考えた。

 ピピピピピ

 ハッとスマホに手を伸ばした。鳴っているのは通話音、メッセージじゃない。
 電話の主は緋色だった。

 返信しなかったから、心配してくれたんだ。

「は、…はい、あの、ごめん、すぐ返せなくて、あの、私…っ」

 慌てて取った通話は涙声のまま、何を言えばいいのかもわからず謝罪だけは伝えたくて。
 少しの間の後。聞こえる声。

「泣いてる…っけか」

 緋色にそれがバレないはずなんてなかったから、もう涙もボロボロ流したままに。だらしなく鼻をすすりながら。

「ごめん…っ。だって、…話せなかった、緑君…いっぱい、話し掛けてくれ、…私、何も、話せなくて…」

「そういう日もあるさ。だっけ、何かあったっけか。珍しいさね、いつもなら緑と一緒ならもっと嬉しそうにしてる気がするさ。あいつ何か気に障る事でも言ったんけ?」

 何か…?

「…緑君が、私みたいな真っ直ぐな子がいいって、言った、の」

 それは淡い期待だったんだ。
 もしかしたら、って、馬鹿みたいに思ってしまったんだ。
 少しでも、好かれているのかなって、思ってしまったんだ。

「ほう?…それは、良かったさね。…だっけ、何で、泣いてるんさ…?」

 だって。

「私、嫌われたくないって、思ったの…っ」

 せきを切って溢れだした涙はもう止まらなくなった。
 電話してるのも忘れているかのように声をあげてわんわん泣いた。

 恋に恋する女の子だったんだ私は。今までずっと。
 その舞台にすら立たない、下からいいなーって見てるだけの女の子だったんだ。

 今、その舞台に上がって。
 足がすくんで動けなくなったんだと知った。
 怖くて何も出来なかったんだとわかった。

 恋が、痛かった。

 初めて知った恋というものが、胸の底をえぐり出すように。
 ただただ、痛かった。
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