カルテットリバーシ
「緑には告らないんけ?」
相変わらず腫れた頬を押さえながら、気付けば緋色の家の近く。
緋色はご両親が遠くに住んでて、マンションで一人暮らしをしてる。
用事がなければ部屋に入れてもらってお話をする事も多かった。
今日もなんとなくその予定で。
「…う」
ドアを開けてもらって、玄関に足を踏み入れながら質問の答えを考えていた。
「あいつ鈍感だっけ、ちゃんと言わないと一生伝わらんと思うさね」
私が入ったのを確認してドアを閉めた緋色は、私の横をすり抜けて部屋に入って行った。それを追いかけるべくもたもたとした足取りで「お邪魔します」と小さく言いながらリビングのローテーブルの前に正座して座った。
「…緑君は私に興味とか、全然ないと思うから」
緋色はキッチンからグラスを2つ持って、ついでに冷蔵庫からファンタオレンジの1.5Lのペットボトルを抱えてこっちに来た。
グラスに注がれるオレンジ色が、さっきの美術室を少し思い出させた。
「それは告ってみないとわからん気がするっけ、逃げてたら始まらんさ」
一つこちらに押し出されたグラスの中でシュワシュワと炭酸が舞う。
私は正座してた足を崩して、膝を立てて体育座りをして顎を膝に埋めた。
「緋色だって、…他に好きな人いるのに、告白してないのは、逃げてるんでしょ…?」
なんとなく自分の事ばかり言われてるのが悔しくてそう返した。
きっと内心「今はセレンの話をしているんだ」って思われてるんだろうな、なんて想像しながら。それでも緋色は優しいからそんな事も言わず。
「逃げてるさ」
ハッキリとそう言い切った。
きっとこういうところが、王子様。
「相手、どんな人…?きっと、とっても綺麗な人なんだろうなぁ」
「…そうさね。綺麗と言えば綺麗だっけ、滅多に会わんから向こうは俺の事なんか今頃忘れてるかもしれんさね」
「ライン知ってるんでしょ?」
「用が無ければ連絡しないさ、…用なんて常にないさ」
緋色は努めて口から出そうとしないけれど、その人の名前はゆき。ゆきさん。
会った事もないし顔も知らないけれど。
緋色も、友達の友達的に紹介されて出会っただけで、連絡先は知ってるけれど月に一度会えればいいなぐらいの存在だったようで。
「会えないのに、…好き、なんだ…?」
聞けば少し辛そうに目を伏せて。
「…なんさね、あんまり笑わないんさあの子。たまに、何かの拍子にふんわり笑うような、…頭から離れないんさ。多分好きってこういうのな気がするさね、知らんが」
最後の「知らんが」は照れ隠しだったのか、恋愛がわからないという意味だったのか、よくわからなかったけれど、ゆきさんを好きなんだなっていうのは全部から伝わってきた。
「…上手くいくといいね」
彼女である自分が何言ってるんだろうって思いながらファンタオレンジを手に取って口に含む。口の中しゅわしゅわとした感覚が叩かれた頬に響いて来て、緋色にはわからないようにほっぺたを押さえた。
相変わらず腫れた頬を押さえながら、気付けば緋色の家の近く。
緋色はご両親が遠くに住んでて、マンションで一人暮らしをしてる。
用事がなければ部屋に入れてもらってお話をする事も多かった。
今日もなんとなくその予定で。
「…う」
ドアを開けてもらって、玄関に足を踏み入れながら質問の答えを考えていた。
「あいつ鈍感だっけ、ちゃんと言わないと一生伝わらんと思うさね」
私が入ったのを確認してドアを閉めた緋色は、私の横をすり抜けて部屋に入って行った。それを追いかけるべくもたもたとした足取りで「お邪魔します」と小さく言いながらリビングのローテーブルの前に正座して座った。
「…緑君は私に興味とか、全然ないと思うから」
緋色はキッチンからグラスを2つ持って、ついでに冷蔵庫からファンタオレンジの1.5Lのペットボトルを抱えてこっちに来た。
グラスに注がれるオレンジ色が、さっきの美術室を少し思い出させた。
「それは告ってみないとわからん気がするっけ、逃げてたら始まらんさ」
一つこちらに押し出されたグラスの中でシュワシュワと炭酸が舞う。
私は正座してた足を崩して、膝を立てて体育座りをして顎を膝に埋めた。
「緋色だって、…他に好きな人いるのに、告白してないのは、逃げてるんでしょ…?」
なんとなく自分の事ばかり言われてるのが悔しくてそう返した。
きっと内心「今はセレンの話をしているんだ」って思われてるんだろうな、なんて想像しながら。それでも緋色は優しいからそんな事も言わず。
「逃げてるさ」
ハッキリとそう言い切った。
きっとこういうところが、王子様。
「相手、どんな人…?きっと、とっても綺麗な人なんだろうなぁ」
「…そうさね。綺麗と言えば綺麗だっけ、滅多に会わんから向こうは俺の事なんか今頃忘れてるかもしれんさね」
「ライン知ってるんでしょ?」
「用が無ければ連絡しないさ、…用なんて常にないさ」
緋色は努めて口から出そうとしないけれど、その人の名前はゆき。ゆきさん。
会った事もないし顔も知らないけれど。
緋色も、友達の友達的に紹介されて出会っただけで、連絡先は知ってるけれど月に一度会えればいいなぐらいの存在だったようで。
「会えないのに、…好き、なんだ…?」
聞けば少し辛そうに目を伏せて。
「…なんさね、あんまり笑わないんさあの子。たまに、何かの拍子にふんわり笑うような、…頭から離れないんさ。多分好きってこういうのな気がするさね、知らんが」
最後の「知らんが」は照れ隠しだったのか、恋愛がわからないという意味だったのか、よくわからなかったけれど、ゆきさんを好きなんだなっていうのは全部から伝わってきた。
「…上手くいくといいね」
彼女である自分が何言ってるんだろうって思いながらファンタオレンジを手に取って口に含む。口の中しゅわしゅわとした感覚が叩かれた頬に響いて来て、緋色にはわからないようにほっぺたを押さえた。