カルテットリバーシ
「…俺自分の恋人に何て話してるんさ、すまんさね」

 緋色が笑う。いつもと同じに見える優しい笑顔で、照れ隠しみたいに悪戯に。でも、私にはわかる、ずっと一緒にいたから。
 緋色は悲しい時は、笑った後に首を傾ける癖がある。
 困ったように傾げるその首には「ごめんね」の意味が入ってる。

「ううん、緋色の恋はすごいなぁ。ずっと、ずっと、ずーっと、ゆきさんの事、考えてるんだね。授業中も?お昼休みも?おうちに帰っても、…ずっと?」

「…そうさね、結局ずっとさね。息をするのと一緒さ。…なんて言ったら、セレンと話してる時でも別の女の事考えてるって堂々と言ってるようなもんさね」

「考えてるの?」

「…すまんさ」

 緋色の頭の中はそれだけゆきさんの事でいっぱいなのに。
 私の心配をしてこうして朝迎えに来てくれて、夜も泣き止むまで電話してくれて。

 本当はそれらは全部、ゆきさんにしてあげたい事なのかもしれないと思った。
 出来ないから、会えないから、私にする事で少し発散されているのだろうか。

 もし、身代わりでも、それで緋色がラクになれるのなら、嬉しいと思った。

「いいの。私も、緋色に緑君の話ばっかりしちゃうし、…まったく、カップル揃って何やってるんだろうね、私達」

 えへへ、と笑えば緋色も口元で笑った。
 居心地の良すぎる私達の心はきっと、同じように悲しく、同じように傷があって、同じようにお互いを慰めあえているのかもしれない。

 緋色の隣りは、居心地が良かった。
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