カルテットリバーシ
「昼間っからイチャイチャイチャイチャとまあ」
背後聞こえた声に思わず二人でバッと振り向いた。
「…なんさ緑、また邪魔しに来たんけ?」
緑君がそこにいるという事だけを認識して、私はパッと前に向き直った。
学ランを握りしめてぎゅっと小さく丸まる。
午前中の授業全部使って、考えた。
緑君に、次会ったら何て言えばいいのかちゃんと考えたから大丈夫。謝ったら昨日の事も許してくれるんじゃないかって何て言って謝ればいいのかもちゃんと考えたから大丈夫。
大丈夫、大丈夫。大丈夫。
大丈夫な、はずなのに。
緑君の顔を見た瞬間にそれらはどこへ吹き飛んでしまったのか。
頭の中は真っ白になった。
「イチャイチャがバレちゃって恥ずかしいよぉーわーん緋色ぉーっとか考えながら彼氏の学ランぎゅーってしちゃう系女子?」
なっ。
「ち、ちち、ちがっ、違う、そうじゃなっ」
慌てて緋色の学ランをバサッと脱ごうとするも、緋色の手がそれを途中で止めた。
「肩冷えるから貸してるだけさ、着てていい」
丁寧な手つきでまた私に学ランを着せ直すと、その間に緑君は私の隣りに座った。
右側に緋色、左側に緑君。
この感じは前にもこの場所で、やった気がする。
隣りの緑君に、心臓は爆発しそうになる。
「…お前ら本当に付き合っちゃえばいいのに。お似合いよー」
そっけなく言った緑君の声が空に響いて行く。
「そ、そういうのじゃ…ないよ、緑君」
否定したかったけれど、昨日の後ろめたさから歯切れの悪い言葉だけが出た。
「俺もそういうのじゃないさね、緑君」
「うげ、緋色に緑君呼ばわりされるとぎもぢわるぃ」
いかにも嫌そうな顔をした緑君が緋色を睨んでいるような気がした。
「なんさ、昨日俺の恋人いじめといて随分態度でかいさね緑」
ちょ。
「い、い、いい、いじめられてないよっ、私、違うよ、緑君に何かされたとか何もないよっ違うよっ」
慌てて手をぱたぱたしながら緑君の方を向けば、さっきまで緋色を睨んでいたであろう一瞬の嫌そうな顔の断片が見えて、でもすぐに悲しそうに私をちらっと見て、目をそらした。
「…」
緑君は何か言おうとした口を開いて、閉じては、開いて、結局、閉じた。
「あ、あの…み、緑君、昨日は、ごめんね。ごめんなさい、あの、私、ちょっと、な、悩み事というか、あって、昨日はその事ばっかり考えちゃって、なんだか急に暗い気分になって、全部自分が悪いだけで、緑君は悪くなくて、ふ、…不愉快だったよね、きっと。…いっぱい話し掛けてくれたのに、…ごめ」
「ごめん」
最後のごめんは緑君のごめんにかき消されて、言えなかった。
「多分僕なんか言ったんしょ、傷つけちゃったんだなーって思ったけど、…僕馬鹿だからどれがダメだったのかわっかんなくってさー!!ごめんねホント、無神経っつーか何つーか、まじ滅びろってゆーか!!あーもーホントにーデリカシー的な何かが足りないのかねー。ごめんね」
明るく言っているのか、自暴自棄になっているのか。
緑君の言葉に悲しくなって首を振った。
「違うよっ緑君悪くないんだよっ」
「悪いよっ。僕と喋ってて傷つけたんだから僕が悪いよっ。ごめんよっ」
「ちが、傷付いてない、私、何も傷付いてなんかないよっ。嬉しかったもん、緑君と一緒に帰れて、嬉しかったし、一杯話してくれて、嬉しかったもんっ、とっても、嬉かっ…」
涙が。
ぼろり溢れた。
違う、今じゃない。
泣くのは、今じゃない。
あ、あれ。
止まって。
止まって、涙。
緑君が、目を見開いて私を見つめる。
私も目を見開いたままどうしたらいいのか硬直する。
違う。
違うの、止まって。
お願いだから、止まって、涙…!!
背後聞こえた声に思わず二人でバッと振り向いた。
「…なんさ緑、また邪魔しに来たんけ?」
緑君がそこにいるという事だけを認識して、私はパッと前に向き直った。
学ランを握りしめてぎゅっと小さく丸まる。
午前中の授業全部使って、考えた。
緑君に、次会ったら何て言えばいいのかちゃんと考えたから大丈夫。謝ったら昨日の事も許してくれるんじゃないかって何て言って謝ればいいのかもちゃんと考えたから大丈夫。
大丈夫、大丈夫。大丈夫。
大丈夫な、はずなのに。
緑君の顔を見た瞬間にそれらはどこへ吹き飛んでしまったのか。
頭の中は真っ白になった。
「イチャイチャがバレちゃって恥ずかしいよぉーわーん緋色ぉーっとか考えながら彼氏の学ランぎゅーってしちゃう系女子?」
なっ。
「ち、ちち、ちがっ、違う、そうじゃなっ」
慌てて緋色の学ランをバサッと脱ごうとするも、緋色の手がそれを途中で止めた。
「肩冷えるから貸してるだけさ、着てていい」
丁寧な手つきでまた私に学ランを着せ直すと、その間に緑君は私の隣りに座った。
右側に緋色、左側に緑君。
この感じは前にもこの場所で、やった気がする。
隣りの緑君に、心臓は爆発しそうになる。
「…お前ら本当に付き合っちゃえばいいのに。お似合いよー」
そっけなく言った緑君の声が空に響いて行く。
「そ、そういうのじゃ…ないよ、緑君」
否定したかったけれど、昨日の後ろめたさから歯切れの悪い言葉だけが出た。
「俺もそういうのじゃないさね、緑君」
「うげ、緋色に緑君呼ばわりされるとぎもぢわるぃ」
いかにも嫌そうな顔をした緑君が緋色を睨んでいるような気がした。
「なんさ、昨日俺の恋人いじめといて随分態度でかいさね緑」
ちょ。
「い、い、いい、いじめられてないよっ、私、違うよ、緑君に何かされたとか何もないよっ違うよっ」
慌てて手をぱたぱたしながら緑君の方を向けば、さっきまで緋色を睨んでいたであろう一瞬の嫌そうな顔の断片が見えて、でもすぐに悲しそうに私をちらっと見て、目をそらした。
「…」
緑君は何か言おうとした口を開いて、閉じては、開いて、結局、閉じた。
「あ、あの…み、緑君、昨日は、ごめんね。ごめんなさい、あの、私、ちょっと、な、悩み事というか、あって、昨日はその事ばっかり考えちゃって、なんだか急に暗い気分になって、全部自分が悪いだけで、緑君は悪くなくて、ふ、…不愉快だったよね、きっと。…いっぱい話し掛けてくれたのに、…ごめ」
「ごめん」
最後のごめんは緑君のごめんにかき消されて、言えなかった。
「多分僕なんか言ったんしょ、傷つけちゃったんだなーって思ったけど、…僕馬鹿だからどれがダメだったのかわっかんなくってさー!!ごめんねホント、無神経っつーか何つーか、まじ滅びろってゆーか!!あーもーホントにーデリカシー的な何かが足りないのかねー。ごめんね」
明るく言っているのか、自暴自棄になっているのか。
緑君の言葉に悲しくなって首を振った。
「違うよっ緑君悪くないんだよっ」
「悪いよっ。僕と喋ってて傷つけたんだから僕が悪いよっ。ごめんよっ」
「ちが、傷付いてない、私、何も傷付いてなんかないよっ。嬉しかったもん、緑君と一緒に帰れて、嬉しかったし、一杯話してくれて、嬉しかったもんっ、とっても、嬉かっ…」
涙が。
ぼろり溢れた。
違う、今じゃない。
泣くのは、今じゃない。
あ、あれ。
止まって。
止まって、涙。
緑君が、目を見開いて私を見つめる。
私も目を見開いたままどうしたらいいのか硬直する。
違う。
違うの、止まって。
お願いだから、止まって、涙…!!