カルテットリバーシ
 後ろから伸びた緋色の右手の平が私の両目を覆うように顔にかかって、そのまま少しだけ私を抱き寄せた。

「…緑もセレンも、少し落ち着くといいさ。今日はセレンは部活だっけか、明日二人ともうち来ていいさ。そこでゆっくり話せばいいさね。中庭で大声でやることじゃないさ」

 そうだった。
 中庭。

 緋色の手の平の下で何粒かの涙がぼろりこぼれて、でもそれは下に流れないように止めてくれた。
 鼻をすすりながら、細く声を漏らす。

「ごめんね、緑君…っ」

 緑君はどんな顔してるんだろう。
 泣くはずじゃなかったのに、女の子泣かせたって気を遣ってくれるかもしれない。緑君は優しいから、そうやって自分を責めてすぐに自分のせいみたいにしてしまうかもしれない。

 私が悪かった。
 緑君が一緒にいるといつもいっぱいいっぱいで、すぐにどうしたらいいかわからなくなっちゃう。すぐに泣きたくなっちゃう。
 私が全部悪かった。

「…こっちもごめん。緋色もごめん。セレン泣いちゃった」

 聞こえた声色は小学生がふくれたみたいな声に聞こえた。

「緑は教室戻るといいさ、午後の授業までにセレン落ち着かせるき、お前いると邪魔さね」

 冷静な緋色の声に、緑君が立ち上がった気配がする。
 しばらくそのまま、何の声も立てずにいればやがて目から緋色の手がはずされて。

 明るくなった視界のどこにも、緑君はいなくなってた。

 振り返り緋色を見つめる。
 緋色はいつもと何も変わらず、ただ優しく私を見つめていて。

「緑には後で上手く言っておくさ。明日までに緑に何言うか考えておくといいさね。大丈夫、何も悪くはならないさ」

 それはきっと、緋色がちゃんといい方向にどうにかしてくれるという意味。私が悪くさせた状況を全部、緋色がどうにかしてくれるという意味。
 どうして迷惑ばかりかけちゃうんだろう。

 ごめん、と、ありがとう、と、どっちを言ったらいいのか、わからなかった。

「…学ラン、落ち着くって言ってたっけか。午後の授業もそれ持ってっていいさ。放課後も別に使わんき、明日返してくれてもいい。好きなだけ持っててかまわんけ、授業中に泣いたりしないように気をつけるといいさ」

 その言葉に涙があふれそうになって、緋色の学ランを抱きしめた。
< 43 / 85 >

この作品をシェア

pagetop