カルテットリバーシ
「ちょ、そんな不安がらなくても大丈夫よ、緋色だし生きてる生きてる!あ~でも何、どうなってるんだろう、あ~どうしよう。どうする?」

 私のために冷静を装おうとしてくれたらしい緑君が、それでも動揺しているようにわたわたとした語尾で喋った。
 私はただ涙目でどうしたらいいかの方法なんてひとつも考えられない状態になった。
 こんなこと一度もなかった。
 今までなかったから。

 どうしているの。緋色。

「あ~!もういいや、部屋行ってみよ。それから考えよ。はい、泣かない!泣かないでね!もう泣かないでね!!」

 もう、泣かないでね。

 やっぱり緑君は、私が泣いた事、ずっと気にしてくれている。
 申し訳ない気持ちも、今は緋色への不安でかき消されて行くようだった。

 早足で歩き出した緑君を慌てて追いかける。
 校門を出てもその速さは落ちる事なく、何個目かの信号が赤になってようやく緑君に追いついた。

「…あ」

 横に並んだら緑君が声を漏らした気がして隣りを見上げた。

「セレン、部屋行っててもらってもいい?いや、多分部屋にいるような気はするんだけど、一応ストリートファイトの方見てみようかなって。そっちで倒れてたら救急車だよね」

 救急車というワードに、私の頭の中がガーンと音を立てた気がした。

「あああ、ごめん、心配煽ったね僕!!違うよ、大丈夫だよ、そんな事になってないとは思うけど、ほら、一応!一応ね!セレンが来ると危ないから、そっちは僕が見て来ようかなって。だからセレンは先に緋色の部屋見てくれる?ね?大丈夫だからね?」

「あ、う、うん、わかった、部屋、行ってみるね」

 どうか何事もありませんようにと願いながら、信号を渡れば部屋とは違う方へ曲がって行く緑君の背中を見送った。何度か振り返って笑って手を振ってくれたのは、私が不安にならないようにするための緑君の優しさだったのだろうと思う。

 早く部屋へ行こう。
 緋色がちゃんといたら、すぐに緑君に連絡しよう。

 歩くスピードが人よりも遅い私はそれでも、みんなよりは遅いかもしれない全力の早足で、最後は走り出すように緋色の部屋へ急いだ。

 手に持った学ランがゆらゆらと、空を切って黒く広がった。
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