カルテットリバーシ
 愕然とした。

 ハッと息を飲み目を見開いた私は、手に持っていた学ランをばさり床に落として両手を口元へ当てた。

「…ひ、……緋色…っ!!」

 駆け寄りソファ横たわる緋色のYシャツは血でべったり赤く染まり。
 生きているのか死んでいるのか緋色はひとつも動かず目も閉じたまま。Yシャツの袖が片方破れたのか肩が大きく開かれているのが見える。その覗いた肩にはいくつものあざと、やはり飛び散ったのか鮮血がまばらに付いていた。

 手が汚れるとか、Yシャツが赤くなるとか、動転したら人間はそんな事を考えないんだと知った。緋色の体に両手を伸ばして抱きかかえるように頭を包み込む。

 私の耳に、微か響く。

 呼吸の、音。

 生きてる。

「緋色…?緋色…?」

 何を言えばいいのかわからなくて何度も名前を呼べば、何度目かで緋色の体がぴくりと動き、抱きしめる私の背中に、先程までだらりとしていた片手がやってきた。

「…セレン…け?」

 届く声は、ほんのわずか。至近距離の私がちゃんとは聞き取れないほどに。
 それでも聞こえた声に、安心して涙が溢れた。

「どうしたの、何したの、…痛いの、大丈夫なの、ねえ、緋色」

「…心配、かけたっけか。…すまんさね、平気さ」

 次いで聞こえた声は先程よりも芯のある、ちゃんと聞こえる声だった。
 私の背中をぽんぽんと叩く緋色の合図に、私は手を離して体を起こした。
 自力で起き上がる力はちゃんとあるようで、緋色もゆるりと体を起こし、片手で頭を押さえた。

「…頭、痛い…?でも、そんな事より、どこか、血が出てるの?痛いの…?傷、洗うの?包帯とか、どこにあるの?…薬、飲むの?」

 言えば緋色は自分の体をぼんやり見つめ。

「腕を切ってるっけ、でもYシャツのこれは俺の血じゃないさね。…一人、歩けなかったダチがいたっけ、そいつ、家まで持ってった時の血だっけ、…着替えてくるさね」

 立ち上がった緋色はふらふらとまともに歩けるようには見えず、慌ててその隣りに沿い両手で体を支えて着替えのある寝室まで向かった。
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