カルテットリバーシ
 玄関からガタガタとした音がしてそっちを見た。
 鍵が開いたままの玄関のドアがガンッと音を立てて大きく開き。でも緋色も私も驚くでもなくその様子をぼんやりと見つめながら。

 誰が入って来たのかなんて、わかっていたから。

「じゃじゃーん、呼ばれてないのに僕が参上。いえい。僕のグラスどこー」

 いつも通りのその風景。
 嬉しくて私はにこにこと笑い。そんな私を見て緋色が笑ったのが見えた。

「あ、ファンタじゃん!!オレンジじゃん!!残ってるやつ全部僕が飲むからね」

 グラスを持って近付いて来たその人。
 金髪のちょっと長めの髪が外ハネでふわふわ。

 大好きな、笑顔。


 緑君。

「…何、僕がイケメンだからってあんまり見ないでよ。ファンタオレンジは僕のもんだし」

「誰もお前がイケメンとは思ってないさ、相変わらずバカっぽいなって思ってただけさ」

「なんだと!?」

 目の前でコミカルに行われるいつも通りのコントのような会話。
 それがとても、好きだった。

 グラスにファンタオレンジを一杯に注いだ緑君が私の隣りに座る。
 ドキドキする。嬉しくなる。もうそれだけで全部がいいやってなる。
 私も真似してグラスを手に取って、緑君と一緒に飲む。
 それだけで時間の全部を共有してるみたいになる。
 好き。
 好きだなって。
 ただ、大好きだなって。
 そういう、時間。

 なのに、緑君は私の方をちらっと見ると、机に音を立ててグラスを置いた。

「…なにそれ」

 途端伸びて来た手にびっくりしてぎゅっと目を閉じると、緑君の指先が触れたのは私の叩かれた左頬だった。なぞるように触れる指に、ドキドキしたけれどきっと今は、そういう事言うタイミングじゃない。

「あ、…ええと…色々あって、叩かれてしまいまして…」

 どう説明しても緋色が悪者になってしまいそうで口を濁した。

「誰に」

 いつも軽い緑君から、重く怒った声がする。

「えっと…、お、女の子に…」

「緋色」

 緑君が私から指を離し緋色を睨む。
 緋色は文句も言わず頭を下げた。

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