カルテットリバーシ
 ゆっくり体を起こしたら、ソファにだらり座り込んでいた緋色を見付けた。
 天井を向いて、両手は目を覆うように顔の上に乗っていて、それが泣いているのかどうかはわからなかったけれど、私はYシャツの胸元を閉じるように片手で押さえて立ち上がった。

 言葉は何も、必要じゃない気がした。

 本当は返そうと思っていた緋色の学ランを手に取り、自分の肩に掛けて、大きく開こうとするYシャツが見えないように自分の体を包み込んだ。
 やっぱりそれは緋色の香りに包まれて、さっきあんな事があったというのに私の頭は本能でただ「ああ、落ち着くな」と感じていた。
 鞄を手に取り、振り返る事なく玄関へ向かい靴を履く。
 そのまま玄関を出れば、まだオレンジ色の不気味な空が広がっていた。

 ああ、思ったより時間はたっていなかったんだなと、妙に冷めた事を考えながら。とぼとぼと一歩ずつ確認するかのように緋色のマンションを離れて行った。


 やがて空は暗くなるんだろう。
 不気味なオレンジは暗い紫を連れて、この空を全部覆い尽くしてしまう。

 緋色の部屋の電気を点けてくれば良かった。
 きっとあのままソファに座り込んで、緋色はずっと明かりも点けずに過ごしてしまうんだろう。夜の闇に覆われる真っ暗な部屋の中で、一人きりにしてしまった。

 せめて電気を点けてくれば良かった。

 そう思う私の頬を、相変わらずの涙が、ぼろぼろとこぼれ落ちては消えて行った。
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