カルテットリバーシ
 家に着くと、玄関を通って部屋に入るまで、運良く誰にも会う事はなかった。
 いつも通りの「ただいま」を言えば、リビングに居た母親はテレビでも見ていたのか「おかりー」とだけ声が聞こえて、そのまま私は自分の部屋へ入った。

 着替えよう。

 脱いだYシャツをよく見れば、第2と第3のボタンがなかった。他は一応付いているものの、2つ下のボタンは今にも取れそうになっていた。
 今度、ボタンをちゃんと全部付け直そう。

 だぼっとした厚手の黄色いTシャツを着て、下も白のデニムを履いて。
 制服をハンガーに掛けて、手を止めた。

 制服に残る、赤いシミ跡。すぐに落とさないと落ちなくなってしまうかもしれない。

 一度ハンガーに掛けた制服を持って洗面台へ向かって。洗濯洗剤と漂白剤でこする。赤いシミはみるみる抜けていって、元の綺麗な白いYシャツに戻る。

 こうやって綺麗になったらいいのに。
 こじれてしまった何もかもが。
 汚れてしまった何もかもが。

 こうやって綺麗になってしまったら、いいのに。

 疲れたような気がした体でYシャツをぎゅっとしぼりながら、ぼんやりとそんな事を考えた。
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