カルテットリバーシ
私の部屋にはデスクのところのイスしかないから、そのイスに緑君に座ってもらって、私と美夕ちゃんはベッドに座った。お母さんが持って来てくれた3人分のりんごジュースを、デスクの上に1つと、ベッドのサイドテーブルに2つ置いた。
何から話せばいいのかわからなくて、お母さんが出て行った部屋の中に不自然な静寂が走る。
「あ、お、音楽でもかけておこっか、なんか落ち着かないよね、気が利かなくてごめんね」
立ち上がりMP3プレイヤーをスピーカーにつなげて、適当に静かな音楽が流れるフォルダを選択して連続再生のボタンを押した。
その、私の背中に、美夕ちゃんが声を荒げて叫んだ。
「いいよ、そういうの!ねえ、どうしたの?セレン変だよ、昨日だって絵の具ぐっしゃぐしゃにしちゃってたし、今日は王子様いなくなっちゃったって、大丈夫なの?ねえ?」
私は慌てるでもなくMP3プレイヤーをその場に置いて振り向き、美夕ちゃんに笑いかけた。
「…うん、ごめんね。なんか、…うまく行かない事がいっぱいあったから、ついぐしゃぐしゃってしちゃって、でも、緋色いなかったのは緋色の都合で、私は関係なくて、ちゃんといたから、大丈夫だよ。マンション、寄ったら、ちゃんと部屋に緋色、いたから、大丈夫」
「うん、マンションにいたってさっきお兄ちゃんから聞いたけどさ!セレンに連絡も無しにどっか行っちゃうなんて、おかしいじゃない!?セレン、傷付いてないかなって、私そっちが心配で!」
美夕ちゃんの言葉は真っ直ぐに私の心に入って来る。
心配してくれて、今私を支えようとしてくれて。
それなのに私は。
緋色の部屋で起きたことをひとつも話してはいけないような気がした。
緋色が大好きな美夕ちゃんに、出来事のひとつも、話してはいけないような気がした。
ベッドに戻って美夕ちゃんの隣りに座り込む。
美夕ちゃんは私に両手を回してぎゅっと抱きつき、
「私がいるからねっ。セレンいっぱい泣いたんでしょ、目が腫れてる!大丈夫よ、私も、お兄ちゃんもいるし、何でも言ってねっ」
そう言って無理に笑って見せてくれた。
何も言えない自分が、情けなくなった。
「…美夕さ、今日泊まってあげれば」
それは突然の緑君からの提案。
「あ!そっか、ねえセレン、泊まって平気なら一緒にいるよ!私もこの後一人にするの不安だし、おうちに迷惑にならないなら!どうかな!」
嬉しそうに言う美夕ちゃんに、断る理由もなくて。
「う、うん、うちは大丈夫だけど…」
答えれば更に嬉しそうな顔をして、「やったー!」と拳を振り上げて見せた。
でもどうして急に。
緑君に目を向ければ、その理由は明確に。
「んじゃ着替え取りに一回帰れよ、僕ここにいるから」
時間を、作ってくれたんだ。
「ん、パジャマとか、持ってくる!あ、でもセレンに手ぇ出したらまじお兄ちゃん警察につき出すしお父さんにも言いつけるしお兄ちゃんの部屋私のコレクションルームにしてもらうからね。本気でやめてね。セレンも、何かあったらまじで言ってね、こいつちゃらんぽらんしてるからホント何すっかわかんないっていうか、いいから、110番していいから。遠慮なくしていいから。ね?わかった?」
マシンガンのように緑君を大批判した美夕ちゃんに、口元くすりと笑って頷けば、美夕ちゃんは満足したように部屋のドアを開けて大きく手を振り、意気揚々と出て行った。
そして、扉が閉まる。
何から話せばいいのかわからなくて、お母さんが出て行った部屋の中に不自然な静寂が走る。
「あ、お、音楽でもかけておこっか、なんか落ち着かないよね、気が利かなくてごめんね」
立ち上がりMP3プレイヤーをスピーカーにつなげて、適当に静かな音楽が流れるフォルダを選択して連続再生のボタンを押した。
その、私の背中に、美夕ちゃんが声を荒げて叫んだ。
「いいよ、そういうの!ねえ、どうしたの?セレン変だよ、昨日だって絵の具ぐっしゃぐしゃにしちゃってたし、今日は王子様いなくなっちゃったって、大丈夫なの?ねえ?」
私は慌てるでもなくMP3プレイヤーをその場に置いて振り向き、美夕ちゃんに笑いかけた。
「…うん、ごめんね。なんか、…うまく行かない事がいっぱいあったから、ついぐしゃぐしゃってしちゃって、でも、緋色いなかったのは緋色の都合で、私は関係なくて、ちゃんといたから、大丈夫だよ。マンション、寄ったら、ちゃんと部屋に緋色、いたから、大丈夫」
「うん、マンションにいたってさっきお兄ちゃんから聞いたけどさ!セレンに連絡も無しにどっか行っちゃうなんて、おかしいじゃない!?セレン、傷付いてないかなって、私そっちが心配で!」
美夕ちゃんの言葉は真っ直ぐに私の心に入って来る。
心配してくれて、今私を支えようとしてくれて。
それなのに私は。
緋色の部屋で起きたことをひとつも話してはいけないような気がした。
緋色が大好きな美夕ちゃんに、出来事のひとつも、話してはいけないような気がした。
ベッドに戻って美夕ちゃんの隣りに座り込む。
美夕ちゃんは私に両手を回してぎゅっと抱きつき、
「私がいるからねっ。セレンいっぱい泣いたんでしょ、目が腫れてる!大丈夫よ、私も、お兄ちゃんもいるし、何でも言ってねっ」
そう言って無理に笑って見せてくれた。
何も言えない自分が、情けなくなった。
「…美夕さ、今日泊まってあげれば」
それは突然の緑君からの提案。
「あ!そっか、ねえセレン、泊まって平気なら一緒にいるよ!私もこの後一人にするの不安だし、おうちに迷惑にならないなら!どうかな!」
嬉しそうに言う美夕ちゃんに、断る理由もなくて。
「う、うん、うちは大丈夫だけど…」
答えれば更に嬉しそうな顔をして、「やったー!」と拳を振り上げて見せた。
でもどうして急に。
緑君に目を向ければ、その理由は明確に。
「んじゃ着替え取りに一回帰れよ、僕ここにいるから」
時間を、作ってくれたんだ。
「ん、パジャマとか、持ってくる!あ、でもセレンに手ぇ出したらまじお兄ちゃん警察につき出すしお父さんにも言いつけるしお兄ちゃんの部屋私のコレクションルームにしてもらうからね。本気でやめてね。セレンも、何かあったらまじで言ってね、こいつちゃらんぽらんしてるからホント何すっかわかんないっていうか、いいから、110番していいから。遠慮なくしていいから。ね?わかった?」
マシンガンのように緑君を大批判した美夕ちゃんに、口元くすりと笑って頷けば、美夕ちゃんは満足したように部屋のドアを開けて大きく手を振り、意気揚々と出て行った。
そして、扉が閉まる。