カルテットリバーシ
「…すまんさ」

「え、え、ちょ、ちょっと待って、違うよっ緋色悪いわけじゃないんだよ、私が呼び出されて行って、その場に緋色はいなくて、ただ私が一人で行って叩かれて帰って来ただけで、緋色は悪くないんだよっ」

 慌てた弁解に緑君が拳を握りしめたのが見えた。

「お前恋人だろ、自分の恋人叩かれてんじゃねえよ!」

 その場を立った緑君が緋色のYシャツの胸元を掴んで睨みつけるそれを、慌てて止めようと二人の間に割って入った。緑君の手はバッと離れ、緋色は目をそむけた。

「だ、だめだよ!喧嘩だめ!」

「…すまんさ」

 緋色は弁解もしなかったし、それ以上の謝罪もしなかった。
 緑君はその様子に呆れたような顔をして、また自分のファンタオレンジの場所まで戻った。

「だっけ、ひとつ言ってもいいっけか、緑」

 ファンタオレンジを煽った緑君が横目で緋色を見る。

「セレンに俺の恋人の振りしろって持ちかけたのはお前さ。これはお前が怒る事だっけか?」

 言葉はどういう意味だったんだろう。
 よくわからず私は硬直した。

「…」

 緑君はバツが悪そうに視線を外したまま何も言わなくなって。
 私は自分のグラスの場所まで戻ってしょんもりと座った。

 二人は仲がいいけれど、いつも言い合いばかりしている。
 喧嘩するほど仲がいいのはわかっているけれど。
 でも私が挟まってしまうのは何かが違う気がした。

「緑君、ごめんなさい。私、もう呼びだされても行かないから、大丈夫だよ」

 少しでも二人に溝が出来ませんように。

 緑君はもう怒った顔はしていなくて。

「…ちゃんと冷やした方がいいよそれ、結構赤いし」

 ぶーたれた子供みたいな顔をしたから、思わずわらっちゃいそうになって。

「…うん」

 口元だけでにこにこして自分のファンタオレンジのグラスをそっと頬に当てた。
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