カルテットリバーシ
 どうやらリビングで朝食を一緒に食べたらしい美夕ちゃんが、私の分の朝食を持って部屋に戻って来て。デスクの上にハムエッグとトーストの乗ったそれを置くと、学校用の鞄を肩に掛けた。

「お母さんにはちゃんと言っておいたから、大丈夫。あ、こっちの私服入ってるトートは学校終わったら回収しに来るから置かせてもらっていい?このハムエッグね、タルタル超合う!このタルタル手作りなんだって?まじ美味しかったー!セレンち泊まって得しちゃったなっ。あ、それじゃ、行って来るねー!」

 美夕ちゃんは最後まで笑顔のまま、その明るさで部屋がいつまでもぽかぽかと温かいような気がした。

 美夕ちゃんが言ってくれたとは言え、自分でもちゃんと言わなきゃなと、体を起こして部屋を出た。洗面所に顔を洗いに行くついでにリビングを覗けば、朝食の片付けをしていたお母さんを見つけて歩み寄った。

「あの、おはようお母さん、学校今日、休むね」

 声にお母さんはふんわり微笑んで。

「うん、美夕ちゃんから聞いたわよ?絵って気持ちで描くものだから、上手く行かない時だってあるわよね。提出今週までなんだって言ってたけど休んで平気なの?今回はあきらめるの?」

 美夕ちゃんはお母さんに、とても前向きに話してくれたんだとわかった。

「…うん、あきらめようかな、直しても上手く直らない気がする。また次、頑張る」

「そう、そんな事もあるわよ。大丈夫、次は上手に出来るわ。ご飯、ちゃんと食べなさいね。美夕ちゃん美味しい美味しいってトースト3枚も食べてったのよ。本当にいい子ね、楽しいご飯だったわ」

 その光景がすぐに思い浮かぶようで、私は勝手に笑顔になって大きくうんうんと頷いた。

「また、泊まりに来てもらっても、いいかな」

 聞けばお母さんも一緒に笑って。

「もちろんよ、セレンが誰かうちに呼ぶなんて珍しいし、あんないい子ならもっともっと仲良くなって、社会に出てからも一緒にいられるお友達になったらいいわね」

 その言葉に冷えていた体が全部、暖かくなるようだった。
< 61 / 85 >

この作品をシェア

pagetop