カルテットリバーシ
 休み時間のたびに、ラインが鳴る。

『緋色1限、熟睡。消しゴム投げたけど外れて当たらなかったから教科書投げたらすごい勢いで投げ返された。僕の肩が負傷』

『2限体育、緋色がだらだら走ってたからドロップキックしたらぶっ飛ばされた。喧嘩慣れしてる奴はもっと加減をすべきだと思いました、まる』

『古典なんて滅びればいいのに、僕まで熟睡。緋色も多分寝てた。というか教室の半分以上は寝てたと思われ』

『昼!やっと昼ー!セレンがいないとこいつどこで飯食うんだろうと思ったらそもそも飯食う気がないっぽい。仕方ないから学食で緋色の分まで買ってくるわ』

 毎時間のその報告は全部コミカルで。
 もしかしたら緑君も緋色も、どこかぎこちないのかもしれないし気まずいかもしれないけれど、緑君の文章からはひとつもそんな事が感じられないように。
 ただただ楽しそうに見える部分だけを送ってくれているように見えた。

 私はそれに何を返せばいいのか、毎回社交辞令のようになってしまうけれども。

『緋色は、焼きそばパンが好きだよ。あと、チョコが挟まったパンも、よく食べてたよ』

 お昼の事だったら少し知っているから、そうやって送ったら緑君から、

『あんがと!!間に合った!今買うとこだった!』

 って返って来て、心がぽわぽわと暖かくなった。

 お昼休みには美夕ちゃんからもラインが来た。
 クラスの他のお友達からも何人かラインが来た。

 その全部に、「大丈夫だよ」「元気だよ」「ご飯食べたよ」なんて返して過ごす、穏やかなお昼。

 もう問題なんてひとつもないんじゃないかと錯覚してしまいそうな。
 温かいお昼に。

 緋色の事をぼんやりと考えて、窓の外の雲を見つめた。
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