カルテットリバーシ
 学校が終わる時間に、またラインが鳴った。

『美夕がそっち行くって。僕は緋色と一緒にいるね』

 メッセージに思わず、緑君にも会いたいと、言いたくなった。

 何度もラインに文字を打っては消す。
 こんなこと、言っちゃいけないんだって思いながら。
 それでも、ちょっとくらい会えない?とか、顔見るだけ、とか、その全部を、消す。

『ありがとう、緋色をよろしくね』

 結局それだけの文章を送信した。
 今は緋色の事が最優先。私の恋なんて、その次。

 緋色には緑君が必要だから、緑君のたくさんのラインが嬉しくても今は、我慢。

 そう思ったのに、ふいにスマホが鳴り響く。
 これはメッセージじゃなくて、通話の音。

 慌てて通話ボタンを押してスマホを耳に当てる。

「あ、セレンー?元気ー?」

 緑君の、声。
 今、聞きたかった、緑君の、声がする。
 どうして。

「う、うん、あの、…今日、いっぱい、連絡くれて、ありがとう。すごく、安心した…」

 私の声は相変わらずかすれたままで、あちこちひっくり返って聞き取りづらかったかもしれない。

「まったくもーなんか緋色に攻撃されまくったよ。心配してやってるってのに信じられないわん!!僕の厚意をなんだと思ってるのか!!」

 緑君はまるで文字の中と変わらない明るさで、通話の向こう側で声を上げた。
 思わず笑ってしまって、くすくすとした声が、きっとスマホに届いてしまった。

「…良かった、今日は笑えるんだね。僕今から緋色んち行くから。美夕うるさいと思うけど、今日は泊まらないで帰って来いって言ってあるから、邪魔だったらすぐ追い出してね~ん」

「じゃ、じゃ、邪魔なんて!美夕ちゃん、いてくれてすごく良かったの、朝も美夕ちゃんがお母さんに事情話してくれて、お母さんも美夕ちゃん居て楽しかったって言ってくれて、また美夕ちゃん泊まりに来てもいいって言われて」

「まじで!?あいつ外面はいいのな~迷惑かけてないなら良しとするか。何か欲しいものある?買って行かせよっか?」

 言われて、まだ来々堂のシュークリームが食べずに冷蔵庫に残っていることを思い出して。

「あ、ううん、大丈夫、だよ」

 答えながら私は、心のどこかで、緑君に会いたいって、言いたかった。
 でも同時に頭の中で、それは言えないって、わかってた。
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