カルテットリバーシ
 始終楽しそうに、でも穏やかに話していた緑君は、緋色の部屋までの道のりで通話をしていてくれたようで、緋色のマンションの前に着けば、別れの言葉みたいな会話にすり替わって行った。

「んじゃ、この後も緋色の事はちゃんと見張ってるし。明日も学校は行かせるし。…あ、セレンも明日学校行く?昼は美夕と一緒に食ってね、昼休みも僕が緋色隔離するから」

 言われて、うんうんと頷くも、ひとつ疑問に思う。

「どうして学校終わった後、一緒に緋色の部屋に行かないの…?いつも、別々に、行くよね」

「え、だって男二人で歩きたくないじゃん」

「別に、いいと思うけど…いつも、楽しそうに二人でいるし…」

「わ~かってないな~。あいつと一緒に帰ると女子からすごい目で見られた挙句、『井波君はホモじゃないの!!』とかよくわかんない事言われんだよ!?別にこっちだってホモでもゲイでもないっつーの!!緋色と歩いてるだけでそんな。もう廊下すら一緒に歩けないよホント。だから、どっちかがどっちかの席まで行って話すくらいで、一緒に行動しないようにしてんのー。緋色もわかってっから一緒には歩かないやつー」

 ぶーたれたような声に聞こえた。
 そんな理由だったなんて知らなかった。
 おかしいの、二人はとっても仲がいい。
 本当に、仲がいいんだと思った。
 一緒に歩いてるだけでそんな誤解されるほどに。

「あ、緋色来た。また後で連絡すんねー多分今日はオセロやり続けるだけだし、圧勝の連絡するわ!!」

 そっか、オセロ。
 結局あのまま緋色にオセロを教えてもらうタイミングは無かった。

「…うん、オセロ、楽しそう。頑張ってね」

 その後すぐに通話は切られた。

 スマホの画面を見つめる。
 トークの最後に表示された通話履歴に、思わずスマホを抱きしめた。

 本当は緋色の心配をしなくちゃいけない。
 私は緋色の恋人で、もちろん心配で。でも会わない方がいいって言われてるから会わないでいて。最後に会った時にあんな事をされて。緋色もボロボロに落ち込んでいるはずで。
 なのに。
 私は。

「…緑君…」

 ドキドキが止まらなくなる。
 ふいによぎる緋色に押し倒されたあの日の出来事。

 怖い、でも、嫌だ、でもなく、申し訳ない、に変わったあの感情が今。

 

 申し訳ない、から、緑君にして欲しかった、に、変わる。
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