カルテットリバーシ
 学校へ着くとすぐに私の手に持つ学ランに気がついた美夕ちゃんが席まで走って来た。

「あ、美夕ちゃん、おはよう」

 言えば挨拶よりも先に、

「誰のそれっ」

 聞かれて。

「緋色のだよ」

 少し声小さく、そう答えた。

「そっか!衣替え!無いと寒いよね!…お兄ちゃん何て言ってた?」

「…まだ、返信見て、ない」

 言いながら鞄からスマホを取り出して。
 ダメって言われたら悲しいなって思いながら深呼吸一つ、トークを開いた。
 美夕ちゃんも一緒に画面を覗き込む。

『おはよー。あーだからあいつ学ラン着てなかったんだ!なーんだー気付かなかったわ、いつ持って来る?僕も立ち会うし、少し話してみる?』

 指がドキドキした。
 緋色と話せる。

「わ、大丈夫そうじゃんー!もう王子様元気になったのかな、良かったね、セレン!」

 喜ぶ美夕ちゃんに大きく首を縦に振って、うんうんと頷いて見せた。
 もたもたとした手つきでひとつずつ文字を打ち込む。

『今日、持って来た。寒いって天気予報言ってたから。お昼休みに、渡しに行ってもいいですか?』

『昼休みね、じゃ中庭にしよ。3年の教室まで来るのつらいっしょ』

『うん、ありがとう、お昼休みに、中庭行くね』

 昼休みは美夕ちゃんも来るって言った。
 文字でずっと聞いていた緋色の様子も、顔は一度も見なかったから。

 でも、何を言えばいいかな。
 最後に会ったあの日の事を、どう謝ればいいかな。

 考えたけれど今は、学ラン返して、今元気かどうかだけ聞こう。
 ゆきさんの名前を出すのも、絶対にやめようと、思った。
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