カルテットリバーシ
 昼休み中庭。
 教室で美夕ちゃんと二人で慌ててお弁当を食べて、走るようにここまで来た。

 抱きしめた学ランからはまだ褪せる事なくずっと、緋色の香りがしている。
 久しぶりに手に持ったその香りに、思わず涙が込み上げた。
 いつもずっと、そばにいてくれた香りだ。

「あ、いたいたおにーちゃーん!」

 私より先に美夕ちゃんが緑君を見つけて、全力でそこまで走って行った。
 その美夕ちゃんの背中を見て足を止めて。その先、緋色の姿を無意識に探した。

 緑君の、少し後ろ。
 まだ少し遠いこの場所に居る私を、緑君は目の前の美夕ちゃんを見つめていたけれど、緋色は明らかにこっちを見ているような気がした。

 どうしよう、泣きそう。

 ただ嬉しくて、感動して、涙が溢れそうで、動けなくなった。
 学ランを両手で抱きしめる。

 すると緑君の後ろをすり抜けて、緋色だけがこちらに向かって歩いて来た。
 少しずつ迫る距離。
 緋色は何も変わっていなくて、相変わらずのキラキラとした王子様のオーラのままで、やつれているでもなく、力強く私を見ながら。
 目の前、数歩のところで足を止めて私を見下ろした。

 何も変わらない緋色だった。
 嬉しかった。

 何を言えばいいのかわからなくて立ち尽くす私に、緋色は軽く目を細めて。

「…あと3秒で泣きそうな顔してるさね」

 言った顔はふわり笑った後に首を傾げた。

 緋色だ。
 緋色だ。

 ずっと一緒にいた、緋色だ。

「あの、…えと…」

 下を向いて目をそらした。
 顔を見たらもう泣いてしまうと思った。

 でも全部がお見通しの緋色は私の頭にぽんと片手を乗せて。

「…すまんかったさね」

 そんな言葉を言うから、やっぱりたまらず涙は込み上げてしまって。

「…酷い、よぉ…泣かないように、我慢してるのに…っ」

 自分の片手で目元を拭いながら、ぼろぼろとこぼれないように大きく息を吸って吐いて涙を止める。

「緑呼ぶさね、抱きしめてもらうといいさ」

「へ!?」

「…冗談さ。涙止まったっけ?」

 言いながら覗き込んだ悪戯な笑顔の緋色に、ドキドキと鳴る胸押さえて顔をそむけた。
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