カルテットリバーシ
 緋色が台所から烏龍茶の入ったグラスを2つ持って来てくれる。
 私はそれをまだ座らずにリビングの入り口で立ったまま見ていたら、緋色は一人がけ用ソファと二人がけのやつを、テーブルを間に向かい合うように移動させて、一人がけの方を指差して私を呼んだ。

 言われたままソファに座ると、緋色は一度寝室の方へ行って、またすぐ戻って来た。

 その手には。

「オセロ。やりたいって言ってたっけか」

 言いながらテーブルの真ん中に置いた。

「え、え、でも、あの1時間しか無いんだよね…?時間あんまり無いよ?」

「やりながら喋ればいいだけさね。俺と無音で二人で居るより安心すると思うさ」

 そう言う言葉は、この間のせいで私がまだ怯えてるんじゃないかと心配してくれているのかもしれなかったから、静かに首を振って。

「あの、本当に全然もう怖いとか思ってなくて、本当に大丈夫だよ」

 言ってる間に中央には白と黒の4枚が並べられて準備は終わったようだった。

「ほら、時間無いさ。俺が黒を持つっけ、先に打つさね」

「え、え、え、?」

 あれよあれよと言う間に最初の黒が置かれて白が一枚ひっくり返る。

「ま、待って、私本当に弱いんだよ?」

「知ってるさ、スーパーイージーモードで勝てないらしいさね。早く、打っていいさ」

 緑君から伝わったらしかった情報に恥ずかしくなってしゅんとした。
 仕方なく一枚取って白を置く。ゲームと違って自分で返さなければいけないから、斜めとかあったら絶対にひっくり返すの忘れると思った。
 気を張って盤面を見つめる。

 緋色の黒が白を挟んでひっくり返る。
 私の白が黒を挟んでひっくり返る。

 何度かそれを繰り返した頃に、ぽつり声が響く。

「…怪我は、しなかったっけか。何も考えず力ずくで押し倒した気がするっけ、あちこち打ってそうさね」

 なんとなく恥ずかしくて、言いづらかったのもあって、ただ盤面だけを見つめた。

「う、…うん。頭と、背中、しばらく痛かったんだけど、でもすぐ治ったよ。もう何ともないよ」

 白を置く。
 横にあった黒をひっくり返して手を引っ込めたら、ひっくり返し忘れた縦の2枚を緋色がひっくり返してくれた。

「…唇。切れなかったっけ?…無茶した自覚はある」

 確信をつくワードに全身がドキドキと震える。
 キス。キスした。あの時は怖くてちゃんと自覚してなかったけど、緋色と、キス、した。やっぱりした。
 急に息が苦しくなるけど、怖がってると勘違いされたら心配かけると思って、ばれないように小さく深呼吸をした。
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