カルテットリバーシ
 しばしの静寂、ずっと盤面を見つめたまま。
 何を言えばいいのかわからず座り込んでいたけれど、気付けば時間はどんどん過ぎていて、緑君に伝えた一時間まであと10分も無い事に気がついた。

 深呼吸、ひとつ。

 意を決して立ち上がり、緋色の隣りに移動した。

「す、…スマホ!貸して!あ、えと、ラ、ライン以外触らないから、あの、」

 きょとんとした顔のまま緋色は何も言わずにスマホを差し出してくれたので、そのままラインのボタンを押す。トークの中から探す「ゆき」の名前。ひらがなか漢字なのか、言葉でしか聞いたことはなかったけれど、ひらがなでたった一人、ID名からちゃんと名前に変えられている「ゆき」を見つけて開いてみれば、私に送るラインとは明らかに違う文面を打つ緋色のメッセージが見えた。
 なるべくそっちは勝手に見ないように、おもむろにその下、通話ボタンを押した。

 静寂の部屋には通話状態になったスマホの中のトゥルルという音さえ、おそらく緋色には聞こえていた。

 やがて、それが声に変わる。
 綺麗な、女性の声。

「…セレン?どこ掛けてる…?」

 小声で牽制した緋色を横目で見て、スマホを耳に当てた。

「あ、あの!初めまして!わ、わた、私!緋色の、か、か、彼女をやっておりまして!しかしながら、今、お別れさせていただきましたので、あの、…あのですね、ひ、……緋色がそちらに行きます!今から行きます!ご都合どうでしょうか!!」

 声に察した緋色がソファに座り込んだまま頭を抱えたのが見えた。
 さ、さすがに強引だったかなと思いつつ、ゆきさんにこの後用事あったらこれどうするんだろうっていう自己突っ込みは今やってきた。

「…う?…あ、あの、…初めまし、て。……わ、…わかった。どこに行けば、いいんだろう…?」

 綺麗な女性の声は完全にパニック状態の声を上げるも、来てくれるような気配にホッとした。でも、待ち合わせ場所。ゆきさんはどこに住んでいる人なんだろう。
 わからなくて緋色を見つめる。

「あの、…駅?…とか…?緋色、わかんない、どこで待っててもらえばいいのかな」

 ごく普通に話しかければ、完全にバツの悪そうな顔をした緋色は口元を押さえて立ち上がり、私の手から勝手にスマホを取って耳に当てた。

「…ゆき、すまんさ。勝手に掛けられたっけ、あー…駅でいいさ、今から行くき、用事とか無いんけ?………じゃ行くさ。……それじゃ」

 どうやら通話終了ボタンを押したらしい緋色が私を睨む。
 負けるもんかと怒り顔っぽいものを作って、拳を胸元で握りしめた。
 緋色の眉間に皺が寄る。怒ってる。
 私も負けじと眉間に皺を寄せた。がんばれ、がんばれ緋色。
 すると伸びて来た手が私の眉間の皺を指で伸ばすように撫でた。

「…女の子は跡付いたら可愛くないっけ、無理にやることないさ」

 言われて、顔を戻した。

「こ、…告白、するんだよ!!ちゃんと!」

「…仕方ないさね」

「がんばって!大丈夫!がんばって!ダメだったら、緑君と、私も、美夕ちゃんも、みんなで慰め会しよっ」

「いらんさ別にそんなもん」

「ダメだよ!みんなでわいわいするの!決定!もし上手く行ったら、みんなでお祝い会するから!!」

「…どっちでもバカ騒ぎは決定なんさね」

「するよ!するから!頑張って!!えいえいおー!」

「だっけ、セレンもさ」

「へ?」

「俺だけ告白するのはおかしいさね。当然セレンも。スマホ」

 出せ、と言うように手を伸ばしクイクイっとされた。
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