カルテットリバーシ
 人のスマホで勝手に通話した自分の罪を考えれば出さざるを得ず、おずおずとスマホを差し出す。
 緋色は慣れた手つきで操作し、やはり電話を掛けたようだった。
 絶対緑君だ。
 極力声を沈めて緑君の声に集中しようとする。

 トゥルル、…ピッ。

 するとつながると同時に緋色はマイクの部分を指でがさがさと触って、爪でカリカリ引っ掻いたりし始めた。そのまま次は足元にあったゴミ箱を思いっきり蹴って、ついでに壁を殴って、通話終了ボタンを押して私に返して来た。

 何が怒ったのかわからずにハテナ顔のままスマホ受け取れば。

「多分血相変えて来るさね」

 楽しそうに緋色は口元を歪ませ、玄関、ガチャガチャという音とバサバサという音、全部と一緒に緑君は勢い良く部屋に入って来て、そういえば緋色の目の前に立ってしまっていた私の体を抱きしめて緋色を睨みつけた。

 ちょ。

 違う。

「何した!!」

 ちょ。

「緑君、違うよ、何もしてないよ、緑君っ」

 一人わたわたとする私と、唖然としつつも睨みつける緑君と、思いっきり吹き出して笑い始めた緋色と。
 これはひどい光景。

「は!?何!?なんなの!?」

「…冗談さ、想像通りのリアクションありがとうさ」

「はぁ!?なんだよ!?」

 二人のやり取りの中。私はそれでもぎゅっと腕に力を込めた緑君の腕の中におさまっているわけで。ドキドキで視界がぐるぐるする。幸せだけれどとても息苦しい。心臓が壊れそう。

「セレンのスマホで妙な物音だけ聞かせたら、そういうリアクションで入って来そうな気がしただけさ。誓って何もしてない。あと話しは終わった、手間取らせて悪かったさね」

 言葉に、緑君の腕の力が少し弱まった。

「…お前さ、やっていい冗談とダメな冗談あんだろ…もう最低、もう信じない」

 緑君の匂いがする。
 こういう、匂いだったんだ。

「…いつまで抱きしめてるっけ、別れたとは言え妬けるさ。早く離すといいさね」

 言われてパッと手を離した緑君は、それでも私の方は見ずに。

「別れた…?」

「今、別れた」

「何で?」

「告白するらしいさ」

「セレンが?」

 緑君と目が合う。
 告白。
 告白、する。

 緑君の腕の中を抜けても尚、早る心臓が止まらない。

「俺もさ」

「は?お前も?」

 一人状況のわからない顔をする緑君を笑いながら緋色は歩き出して私の鞄を手に取り差し出して来た。

「さて、俺行くとこあるっけ、二人とも帰ってくれさ。人、…待たせてるさね」

 緋色が笑う。
 きっと緊張してるんだと思った。
 私も緊張してる。

 目が合えば伝わる。お互いに向けた「がんばれ」

 私は鞄を手に取って、「がんばるよ」の意味を込めて二度、頷いた。
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