カルテットリバーシ
 緑君が吹き出した。

 わかりやすくくしゃり顔を崩して、鼻に指を当てて横を向いた。

 笑いながら私を見た。



「僕押し倒すスキルとか無いけど、いーの?」



 いいの?
 それは、つまり。それは。

「なんだよ!それならもっと早く言ってよ!本当は緋色の事好きなんだと思ってたじゃん!!あいつは別に好きな奴いたけど、セレンは片思いしてんだと思ってたしまじもう!!」

 私だけ時間が止まってみたいに緑君を呆然と見つめる。
 緑君は困ったようにそわそわとせわしなく動き私をちらちらと見ながら。

「僕だって好きだったよずっと、ずっと、ず~~~~っと!!!」

 言った言葉は、脳でうまく処理出来なくて私は眼球をぐるりとゆっくり一周させた。

 …う?

 緑君が、何を、好き?

「言っとくけど僕のが先だからね、セレンがいつから僕を好きだったのか知らないけど!!絶対僕のが先だから!」

「う…?ううう…??わ、わた、私は、緋色と付き合う前から緑君の事が好きで…」

「…は?マジ?え?僕緋色とセレン付き合わせた時からって言おうとしたけど、え?負けてる?僕負けてるの?」

「…そんなに前から、…私を、好き…?」

 好き。
 緑君が、私を、好き。

 顔が一気に上気してボンッと音を立てたように赤くなった気がした。

 信じられない。
 どうしよう。
 どうしよう。

「…僕でいいの?僕すぐ妬くけど。緋色みたいにかっこよくないけど。クールに決められないけど。緋色みたいに優しくないけど。あいつみたいにキザな台詞平気で吐けないけど。モテないけど。王子様笑顔とか出来ないけど。センスも良くないけど。きっと一緒にいても全然安心しないし頼りにならないと思うけど」

 緋色、緋色、緋色。

 すぐ妬くけど、って最初に言った。
 今までずっと、ずっと、妬いててくれたのかもしれなかった。

「緑君が、いいよっ」


 全然安心しない緑君の隣り。
 不安定で居心地の悪い、緑君の隣り。
 でも緋色とは比べようもならないほどの大きなものがそこにはあって。

 今ならわかる。


「緑君の隣りが、一番嬉しくて、幸せだったよ」



 幸せという、これから始まる新しい時間の、約束。
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