カルテットリバーシ
11.始まり
セントポーリアの花が咲いた。
まだ12月、クリスマス前。
てっきり1月に入らないと咲かないと思っていたのに、それは急に咲いたように。つい先週まではまだ咲く気配なんてなかったのに。ぽんっと開いたたくさんの花。
スマホを向けて写真を撮る。
日中の眩しい日差しは低く、窓から横に差し込めばそれはキラキラと輝いている写真のようになった。
それをトークの画面に貼り付けてメッセージを打つ。
『セントポーリアの花が、咲いたよ』
覚えているかな。
なんて、きっと男の子はすぐに忘れちゃってると思うけれども。
こんな乙女モード全開の女の子の約束なんて、きっとたかが知れてるものだろうと思って、咲いた、というだけの報告のメッセージにした。
既読のついたそれに、返信が付く。
『おーこうやって咲くんだー!見に行ってもいんだよね?』
…覚えてて、くれたのかな。
それとも、今見に行きたいと思って言ってくれただけなのかな。
わからなかったけれど、私の心はぽっと暖かくなった気がして。
『うん。緑君の都合のいい時に、来て、欲しいな』
『今は?』
今?
『うん…?今から、来るの?』
『うん、今セレンちの前にいるの』
…え?
日曜日、学校はお休みで、お昼ご飯を食べた後の、私。
外にいる…?
窓から顔を出せば本当に家の前には緑君がいて、でも私はまだ適当な部屋着を着てるだけの状態で、こんな格好じゃ出られないと、慌てて部屋の奥、クローゼットからあれやこれやと服を取り出してはバタバタと準備をした。
「ど、どど、どうしたの」
外へ飛び出す。慌てて選んだワンピースは、まるで今から出掛けるかのような格好になってしまった気もしたけれど、そんなことより髪がぼさぼさだった事を今更思い出して手で撫でて直そうとした。
「あ、…うん。急にごめん、なんか会いたかったから」
ぽつり言う緑君の言葉に全身が真っ赤になった。
「お、…お部屋、どうぞ」
その場にいるのがどうにも恥ずかしくて一人バタバタと緑君を置いて玄関のドアを開けて、手で「どうぞどうぞ」ってして見せた。