カルテットリバーシ
 セントポーリアの前に緑君が立つ。
 花びらをそっと指で触りながら、その口元が小さく笑む。

 二人きりの部屋の中は落ち着かなくて。
 緑君の分と2つ持って来たお茶のグラスは私の方だけが半分くらいに減っていた。

「あ、…あの…。ひ、緋色のとこ行くって、言ってなかった…?」

 昨日、緑君からそう連絡が来た気がして聞けば、

「デートなんだってさーあいつ付き合い悪くなったわー」

 ぶっきらぼうに怒ったように言うその声が、嬉しそうな色をしている。

「…ゆきさんと、上手く行ってるんだね」


 告白を取り付けたあの日。
 私は緑君に告白して、付き合うことになって。その後すぐに緋色から『恋人が出来ました』のメッセージが来た。二人で大喜びして。みんなでお祝いして。

 それから、2ヶ月くらい。

 特に大きく変わった事はなくて。
 結局、昼休みも放課後も、暇さえあれば緋色と一緒にいた。
一年以上続いた習慣を崩すにはお互いにリズムも崩れて大変だからと。ただ、その場にはいつも、必ず、緑君が居てくれるようになった。

 恋人。

 今度は、本当の、恋人。


「…あのさ。聞いてい?いや、考えたくなかったら答えなくていんだけど」

 いつもと違う、真剣な声のトーンに、持っていたお茶をデスクに置いた。
 私に背中を向けたままの緑君が、セントポーリアから手を下ろす。

「男に襲われるのは、…怖くない?」

 言葉は真剣だったけれど、私は一人脳内大暴走でぱたぱたとよくわからない動きをしながら、

「な、なな、な、あの、準備、心の準備、あの、いえ、」

「あ、あーあーあーち、違うよ、今するよとかそういうのじゃないよ!!」

 慌てた緑君が振り向けば、その顔は耳まで赤くなっているように見えて。

「ち、ちち、違った、勘違いごめん、ごめんね緑君っ」

 私も一緒に真っ赤になって、おろおろした動きも止められず。

「こ、怖いかなって思ったの!!緋色のあれ、全部力ずくっつってたし、僕あんま近くにいない方がいいのかなっていうかあんまセレンに触んない方がいいのかなっていうか二人きりとかなんない方がいいのかなとか、色々考えたけどやっぱ触りたいし!!聞いてみただけ!!」

 さ、触りたいし。

 心臓が、壊れそう。

 私も緑君に、触りたい。

 
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