カルテットリバーシ
 次の日休み時間、美夕ちゃんが走って私の席まで来た。
 同じクラスだけど美夕ちゃんの席は教室で一番遠く。端と端。
 窓際の私の席まで真っ直ぐ、間の机をよけながら来た。

「セレン、土曜日空いてるっ?」

「あ、う、うん、空いてるよっ。どうしたの?」

 どもって伝えた言葉にかぶせる勢いで美夕ちゃんは口を開いた。

「水族館!行こ!」

 その目はキラキラと。でも突然どうして水族館?
 私は一人はてなはてなな顔をしながら一応こくこくと頷いて。

「う、うん…?うん、行く。行くけど…?」

 目線だけで「何があったの?」を訴える。
 美優ちゃんは急に恋するオトメモードなお祈りポーズの手をほっぺたに当てながらくねくねと動き始め。

「巨大マンタがやってくるんですって~」

 ふわふわとした口調でそう言った。
 マンタ?

「……エイみたいなやつ?」

 浮かぶは白くて三角っぽい形のお魚。合ってるのかな?と首をコテン。

「ちょっとセレン!違うわよ!マンタっていうのがそもそもエイの種類の一種で、エイ目トビエイ科の生き物なのよ!マンタとエイは別物じゃないの!わかる!?」

 前のめりで形相を変えた美夕ちゃんに、ただただこくこくと頷いた。

「来週までしかいないみたいだから今週末行きたいの…お願いっ」

 今度は可愛くおねだりポーズに変わった美夕ちゃんに笑顔を向ける。

「あ、…あの、駅前に出来たクレープ屋さん行きたいんだけど、そっちも付き合ってもらってもいいかな…?」

 そんな用がなくても一緒に水族館に行くつもりだったけど、なんとなく、美夕ちゃんばかりにお願いをさせるのは申し訳ない気がして、私からもお願いを付け加えた。
 美優ちゃんはパッと明るい顔をして、「もち!」と笑って拳を振り上げた。

 土曜日、水族館。マンタ、クレープ。
 一気に全部が楽しみになって、学校が終わるまでふわふわと水族館の事を考えて過ごしていようと思った。
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