白い花が咲いたなら

 黙って手を繋がれているあたしを見て、彼はそのままゆっくり歩き出した。


 あたしはうつむいたまま、彼から一歩分だけ遅れて歩き出す。


 夕暮れの街はあっという間に薄闇に包まれ、ぽつぽつと街灯に明かりが灯り始めた。


 あちこちの家の窓辺にも、温かそうな明かりが見える。


 橋の下から、静かに流れる水の音が聞こえる。


 すれ違う自転車から、かすかな風を感じる。


 あたし達は、ずっと手を繋いだまま黙って歩いていた。


 ―― トクン、トクン、トクン……


 さっきから忙しく鳴り続ける心臓の音。


 そして……あたしは……。


「怜奈」

「…………」

「どうして泣いてる?」

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