白い花が咲いたなら

「そっか」

 あたしの手を包み込む手に、キュッと力が込められた。


「それってさ、“幸せ”ってヤツじゃね?」


 そんな彼の声を聞いて、あたしの胸は甘く切なくなる。


 彼と繋いでいない方の手で涙をそっとぬぐって、あふれる想いを噛みしめた。



 あたしの心の中から、あたし自身の声が問いかけてくる。


『ねえ、この想いをなんて呼ぶの?』 って。



 その問いの答えを、知ってる。


 でも口に出すのが照れくさいし、もったいない気がして。


 それよりも今は、夜風に吹かれながら彼とこうして歩いていたいよ。


 手を繋ぎながら。


 不思議に心地良い胸の痛みと、一緒に……。



「着いたぞ。お前んち」


 なのに、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうね。

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