白い花が咲いたなら

「憎むしかねえだろ? あの人を」


 近藤くんはそう言って、街並みを見下ろしながら遠い目をした。


 きっと、この街のどこかにいるんだろう。


 彼の命を奪った人が。


 家や、ビルや、公共施設の屋根を見下ろす、この空の下。


 舗装された道路を車や人が行き交う、こんな……


 こんな普通の世界の中で。



 あたしは彼の横顔に向かって、わざと明るい声で話しかけた。


「あたしの場合はさ、病気だったから。それなりに覚悟みたいなのはできてたんだ」


 もちろんもっと生きていたいって望んでいたし、苦しみもしたけど。


 病気は誰のせいでもないし、誰も憎んではいなかった。


「別に恨みも執着もなかったはずだけど、なんでここに来たちゃったかな?」


「ごめん! その原因、たぶん俺!」


 近藤くんがクルッとこっちを振り返り、頭を掻きながら謝罪した。

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