もしも勇気が出たら君を抱きしめたい
顔をあげると、九条が立っていた。
「先生、気づいてるんじゃないの?」
こいつは、一時間もこの寒空の下、待っていたのだろうか。
「伊東、たぶん先生が好きだよ。」
九条がまっすぐ僕を見る。その瞳は、うわべの返事はいらない、と訴えていた。
「・・・けど、僕にはできない。」
僕の声は驚くくらいかすれていた。
「それに、それは九条の勘違いだよ。伊東は僕を好きじゃない。」
もしかしたら、と期待したことはいくらでもある。
けど、それはきっと僕の勘違いで。
「僕は、先生だから。」
その一言がすべてだった。九条は黙っている。