もしも勇気が出たら君を抱きしめたい
次々と入ってくる三年生に交じって、懐かしい顔が見えた。
「もも先輩!」
岡部が椅子から飛び降りて、伊東に抱き付く。
「おうおうおう、すごい勢いやなお前は」
相変わらず少し低い声は、僕の耳によく届く。
髪の毛は見ない間に、だいぶ伸びていて、今日は卒業式だからかふんわり毛先を巻いている。
急に大人っぽく見えてドキッとする。
きっと制服を脱いだら、もっと変わるんだろう。
「先生、ひさしぶり」
「ひさしぶり。とお疲れ様」
本当に久しぶりだった。こんな風に話すのも。
「クリスマスの、クッキーおいしかった。ありがとう。」
ずっと言えなかったことを口にする。
「うちってすぐ気づいた?」
「字でわかるよ。」
「さすがやなぁ。」
こんな会話をするのは、今日で最後になるかもしれない。